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良性家族性血尿(菲薄基底膜病)[私の治療]

No.5268 (2025年04月12日発行) P.47

幡谷浩史 (東京都立小児総合医療センター総合診療科部長)

登録日: 2025-04-12

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  • 良性家族性血尿は,臨床的には持続性の血尿を主体(蛋白尿はあったとしても軽度)とする検尿異常を認める非進行性の病態であり,家族に血尿を認める。組織学的には糸球体基底膜に広範な菲薄化が認められることが多く,菲薄基底膜病(thin basement membrane disease)と同義とされることもある。遺伝学的には半数以上の症例でⅣ型コラーゲンα鎖のCOL4A3,COL4A4の病的変異をヘテロ接合体に認める1)

    ▶診断のポイント

    低年齢から尿検査で血尿を指摘され,家族に腎機能障害や若年難聴を伴わない血尿単独陽性者がいる場合,本疾患を疑う。血尿は微少血尿から上気道炎を契機に反復する肉眼的血尿まで幅広く,糸球体性(dysmorphic)である。病理組織所見は,電子顕微鏡で糸球体基底膜が広範囲に菲薄化を認め,他の糸球体性腎炎所見がない場合に診断される。6カ月以上持続する糸球体性血尿を認める場合,侵襲の高い腎生検を避けるために遺伝学的検査(COL4A3-COL4A5)を推奨するガイドラインもある2)

    Alport症候群の初期段階との鑑別が重要となる。難聴や,日本人には少ないが円錐水晶体の有無の検索を行うとともに,問診で腎機能障害を伴う血尿,円錐水晶体や若年性の難聴を有する家族がいないか確認する。

    良性家族性血尿はCOL4A3,COL4A4の病的変異を片側のアリルに認め(ヘテロ接合体),常染色体顕性遺伝形式で血尿の家族歴を認める。同遺伝子は2番染色体に位置し,両側のアリルに病的変異が存在する(ホモ接合体)場合には,20歳前後に末期腎不全になる常染色体潜性Alport症候群を呈する。家族歴とともに,遺伝学的検査は予後予測に有用である。

    COL4A5の異常はAlport症候群の中で最も多いX染色体連鎖型として知られている。初期には検査異常は血尿単独のことがあるため鑑別が難しいとともに,孤発例もありうるため,家族歴がなくても蛋白尿が増加する症例や感音性難聴を合併する症例では精査が必要である。

    気道感染を契機に肉眼的血尿を反復する疾患であるIgA腎症も鑑別疾患となる。家族歴を有す場合もあるが,腎生検で診断する。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    検査異常が血尿単独であり,家族も同様である場合には,いわゆる「良性家族性血尿」であるため,一般的に腎生検は行わず治療も不要である。蛋白尿が合併する場合や腎機能低下をきたす場合には,「良性家族性血尿」ではなく進行性の腎疾患の可能性,もしくは他の腎疾患の合併と考え,腎生検による精査を行い,治療方針を検討する。

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