著者は1973年東大医学部卒業後、産婦人科病院医を経て診療所在宅ホスピス医となった時に在宅ホスピスケアに目覚め、その後病院長となり施設ホスピスを立ち上げたが思いは叶わず、2000年、ホームケアクリニック川越を開業した。
(川越 厚 著、保健同人社、1992年初版)
私が病院医療に限界を感じ、開業医への転身を考えていた頃に出会った一冊である。私は病院で癌患者を次々看とっていく中で、言葉では聞かなかったが、「家で死にたい」という心の叫びが響いてくることに気付いていた。
本書について、川越厚氏は「基本的には在宅で家族と共に看とったガン患者のことを綴った記録」としているが、産婦人科病院医・診療所在宅ホスピス医・癌患者本人としての体験を元に、患者・家族を思いやることができる医療者となりつつあった頃の著作である。また、末期癌患者の最良の療養場所は在宅にあり、「在宅ターミナルケアには、一種の魔力がある」と結論付けている。
患者は家という生活の場でこそ人としての尊厳を保ち続けることができ、残された時間を家族と共有していくことは看とる者の達成感も大きくなる。当時、漠然と在宅医療もする開業医を目指していた私に、「癌患者の在宅ホスピスケア」への動機づけをしてくれた書であった。
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