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【私の一冊】『壊血病とビタミンCの歴史─「権威主義」と「思いこみ」の科学史』

No.4785 (2016年01月09日発行) P.71

佐々木 敏 (東京大学大学院医学系研究科社会予防疫学分野教授)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-31

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  • 英語版初版は1986年。著者はイギリス出身の栄養学者、栄養史家。元米カリフォルニア大学栄養学部教授。壊血病の歴史は有名であり、類書も多いが、最も史実に忠実に書かれた一書(ケニス・J・カーペンター 著、北村二朗・川上倫子 訳、北海道大学図書刊行会、1998年刊)

    栄養健康情報氾濫の時代に、歴史に学ぶ

    350頁あまり、小さな文字の縦書き2段組みで、本を読んだという気分にさせてくれる。しかし、魅力はその副題にある。時代(とき)の権威(壊血病の研究者でも、壊血病に対峙してきた臨床医でもなく、ほかの分野で功を成した人たち)が提出した学説を医学界は認め、世間はそれを広めた。そのたびに、そのすぐ脇にあった真実は霞んでしまい、およそ500年にもわたって同じ過ちが繰り返された。淡々と並べられた史実には迫力がある。

    1747年、イギリス海軍軍医のジェームズ・リンドが12人の脚気患者を用いて洋上で行った実験を、世界初の臨床試験とする考えがある。リンドは6種類の治療法を比較した。新鮮なオレンジとレモンも含まれ、これだけが著効を示した。しかし、様々な批判を受け、社会から忘れ去られる。「理由を説明できない、経験依存主義だ」という主張が底流にあったようだ。

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