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統合失調症における多剤併用と心臓突然死の関係は?

No.4808 (2016年06月18日発行) P.63

藤井康男 (山梨県立北病院院長)

登録日: 2016-06-18

最終更新日: 2016-10-29

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【Q】

精神疾患患者の多剤併用と心臓突然死の関係についてご教示下さい。 (岐阜県 K)

【A】

(1)統合失調症患者の死亡リスク
この質問への回答ですが,対象が精神疾患患者ではあまりにも広いので,統合失調症患者についてお答えします。そして多剤併用ですが,これには抗精神病薬間の併用だけでなく,抗精神病薬と抗不安薬などほかの向精神薬との併用もあり,さらに抗精神病薬全体の用量も重要です。多剤併用すると大量になりやすいのですが,そうならないこともあります。
死因は非自然死(自殺,他殺,事故死)と自然死(身体の病気による死亡)にわけられます。死亡リスクの検討では,これらすべての死因を検討しています。突然死は「予期せぬ突然の自然死」で,発症からの時間が短いほど心臓突然死が多くなります。死因の検討には剖検が重要ですが,多数例の検討は少なく,「突然の原因不明死」を心臓突然死と同様に取り扱っている調査もあります。
統合失調症患者の死亡リスクが一般人口よりも高いことは,数世紀前から指摘されていましたが,最近でもその平均寿命は一般人口より15?20年短く,一般人口の平均寿命が伸びている中で,この差が近年広がっているのかが議論になっています。そして,この差の約28%は自殺,約12%は事故死,約59%は自然死で説明されると言われています。自然死の中では心臓死が最も大きな要因で,統合失調症患者では一般人口との比較でも心臓死リスクが高いことが明らかになっており,それには身体疾患への対応の不十分さ,喫煙,食事・運動の問題,そして薬物の影響などが関係すると思われます(文献1)。
抗精神病薬出現以前から,興奮した患者が突然死亡し,剖検しても死亡を説明できるような所見が見出せない場合がありました。1950年代に出現した抗精神病薬の有用性は明白で,精神病症状を改善させるだけでなく,明らかな再発防止効果があります。抗精神病薬非投与例では,投与例と比較し死亡リスクが倍増することが多くの報告で確認されており,投与が不規則な例でも死亡リスク増加が明らかになっています。これには自殺などの増加だけでなく,精神病症状の悪化によって,自らの身体的健康を守れなくなることが関係するかもしれません。
(2)統合失調症患者の死亡リスクと
多剤・大量処方
かつて抗精神病薬の併用と死亡リスク増加との関係が発表されましたが,近年示された複数の北欧の大規模調査では,それらに有意な関係はないとされています。しかし,抗不安薬や睡眠薬として使用されるベンゾジアゼピンの併用は,複数の大規模調査で死亡リスク増加との関連が明らかにされています(文献2)。また,大量の抗精神病薬投与例では死亡リスク増加が報告され,米国の大規模な検討結果では,第1世代抗精神病薬のクロルプロマジン換算で1500mg以上の場合,有意に死亡リスクが高まると発表されました(文献3)。わが国で行われている多剤・大量処方の中で,特に抗精神病薬の大量処方やベンゾジアゼピンの併用が死亡リスク増加に関連する可能性があります。抗精神病薬間の多剤併用は,結果として大量投与になり,死亡リスクを高めているのかもしれません。
(3)統合失調症患者の心臓突然死リスクと 多剤・大量処方
抗精神病薬と心臓突然死との関係は,かつてチオリダジンなどで話題になりましたが,再び大きな注目が集まったのは,Rayら(文献4)の2009年の大規模調査からです。この報告では抗精神病薬を服用していると心臓突然死のリスクが倍増し,その用量が増えるに従って,心臓突然死リスクが高まるとの結果が得られました。抗精神病薬は心筋細胞の再分極過程を抑制し,その結果QTcが延長し,これがtorsades de pointes(TdP),心室細動,突然死に結びつくと想定され,心電図の経時的な追跡の必要性が述べられています。しかし,本調査については,QTc延長によるTdPの予見特異性の低さや両者の乖離などがあるためQTcはbiomarkerとして不完全で,QTcを継続的に測定する方針は時期尚早との意見もあります(文献5)。抗精神病薬の多剤併用とQTcとの関係は,最近のメタ解析でも明確な結論は得られていませんが(文献6),QTcが500msec以上の場合や,あるいはベースラインから60msec増加した場合には注意が必要でしょう。
統合失調症で入院中の患者の突然死についての多数例の剖検結果をまとめると,その死因の6~7割は心血管系疾患,5~6割は心筋梗塞で,剖検によっても死因が判明しない症例が1割程度認められ,この一部は心臓の伝導系障害による死亡の可能性があると想定されます(文献1)。したがって,統合失調症患者の心臓突然死を減少させるためには,心筋梗塞による死亡を減らす努力が最も大切で,抗精神病薬による心臓の伝導系障害による影響よりもはるかに重要であることがわかります。そして,大量の抗精神病薬が処方されている例では,その直接的な影響だけでなく,病状が重いため身体疾患への対応が十分にできず,それが心臓突然死リスクの増加に結びつくのかもしれません。

統合失調症患者への抗精神病薬治療は,症状の改善や再発防止に必須です。一方で,抗精神病薬の過剰な投与やベンゾジアゼピンの併用は死亡リスクを高める可能性があります。必要最低限の抗精神病薬のきちんとした継続,生活習慣の改善や定期的なモニタリング,そして心筋梗塞などを含めた身体疾患への早期の対応が心臓突然死の減少に重要と考えられます。

【文献】


1) 藤井康男:臨精薬理. 2015;18(1):3-16.
2) 藤井康男:臨精薬理. 2013;16(8):1165-72.
3) Cullen BA, et al:Schizophr Bull. 2013;39(5):1159-68.
4) Ray WA, et al:N Engl J Med. 2009;360(3):225-35.
5) Lieberman JA, et al:APA Guidance on the Use of Antipsychotic Drugs and Cardiac Sudden Death.Office of Mental Health, 2012.
6) Takeuchi H, et al:Can J Psychiatry. 2015;60(5):215-22.

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