わが国において,人工膝関節置換術(TKA)は年間約8万件実施されるようになり,10年前と比較して約4倍と,現在も増加の一途をたどっている。人口がわが国の約2.5倍の米国では,TKAが年間約67万件も実施されているが,TKAによる社会的利益は,内科的な治療費の軽減などにより,人工関節1件あたり約200万円であると試算されている。しかし,現在のTKAの問題点は,患者満足度が人工股関節置換術のそれと比較して低く,いまだ満足できる関節機能が得られていないことである。
そこで,TKAにおける新しいインプラント設置方法であるキネマティックアライメント法が注目されている。現在実施されているメカニカルアライメント法は,全下肢の機能軸(荷重がかかる軸)かつ膝関節の機能的な屈伸軸を参照して,画一的にインプラントを設置し理想的な荷重配分を得ることにより,人工関節の耐久性を確保している。一方,キネマティックアライメント法は,膝関節の関節表面形状から形態学的な屈伸軸を参照することにより,個々の膝関節の解剖学的な復元を重視した方法である。さらに,本法によるTKAは,メカニカルアライメント法より関節機能面においても良好な臨床成績が得られたという。
しかし,この方法をわが国において採用するにあたっては,特徴的な脛骨近位の内弯変形のあるO脚の症例が多いことから,TKAの耐久性に影響する可能性が危惧される。そのため,適応については慎重に考えていく必要がある。