【Q】
かかりつけ医が認知症をどのように見つけ専門医につないでいけばよいか,という質問を受けることがあります。さらなる評価の必要性を判断するためのスクリーニングツールについて教えて下さい。洛和会音羽リハビリテーション病院・木原武士先生にご回答をお願いします。
【質問者】
岡 靖哲:愛媛大学医学部附属病院睡眠医療センター センター長
【A】
超高齢社会を迎え,様々な患者を受け入れる一般内科などの認知症非専門医にとって,認知症スクリーニング検査の必要性が高まっています。
認知症の診断には,病歴を本人および家族から十分確認することが必要です。その上で本人の記憶・学習を含む認知機能を評価するほか,行動・心理障害(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)や日常生活動作(activities of daily living:ADL)も確認する必要があります。
(1)認知機能を評価する検査
記憶・認知機能を評価する検査としてウェクスラー成人知能検査(Wechsler Adult Intelligence Scale-Revised:WAIS-R)などがありますが,施行に時間を要することもあり日常診療で用いるには煩雑です。記憶検査であるウェクスラー記憶検査(Wechsler Memory Scale-Revised:WMS-R)やリバーミード行動記憶検査(Rivermead Behavioural Memory Test:RBMT)は国際的に標準とされていますが,これらも一般臨床では実際的ではありません。
アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease:AD)と臨床的に診断された場合,記憶を中心とする認知機能検査としてAlzheimer’s Disease Assessment Scale(ADAS)があります。認知機能下位尺度と非認知機能下位尺度から構成され,前者の日本語版であるADAS-Jcogが用いられることが多いのですが,認知機能の変化を評価することを目的にしており,スクリーニング検査には向きません。
(2)外来での認知症スクリーニング検査
多忙で時間がとりにくい外来で認知症を疑い,さらなる精査を行うか判断するためのスクリーニング検査には,簡便で短時間に行えるものが有用です。手法としては,①被検者への質問式の検査と,②介護者からの情報による検査の2種類があります。①として国際的に広く用いられているのはMini-Mental State Examination(MMSE)です。改訂版長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa’s Dementia Scale-Revised:HDS-R)もわが国で広く用いられています。その他,時計描画テスト(Clock Drawing Test:CDT),N式精神機能検査といったものもあります。②としてShort Memory Questionnaire(SMQ)などがあります。
MMSEは見当識,記銘力,注意・計算,言語機能,口頭命令動作,図形模写といった認知機能の様々な面を短時間で簡便に評価できます。HDS-
Rと比較して記憶に関する設問が少なく,ADではHDS-Rより得点が高くなる傾向にあり,また教育年数の影響を受けるとされています。一方で,HDS-Rにはない,視空間と構成能力を判断する図形模写の設問が含まれています。
HDS-Rは長谷川和夫先生によって作成された簡易スケールで,年齢,見当識,記銘力,計算,数字の逆唱,物品の視覚記銘,言語の流暢性などの設問からなっています。CDTは視空間認知および構成能力の簡便な機能評価として臨床現場で用いられている検査のひとつです。CDTの施行自体は非専門医でも簡便に短時間で実施でき,被検者としても負担の少ない検査法です。課題は,コンセンサスの得られた採点方法がないことです。また,ADの検出において特異度は高いものの感度は低いとされ,他の神経心理学的検査との組み合わせが推奨されています。
私たちは,ADの検出感度向上のため近時記憶や見当識に関する項目をCDTに付加した認知症検査のスクリーニングツールMemory-entailed Clock Drawing Test(Me-CDT)を開発しました。また,Me-CDTのスコアはMMSEと相関する結果を得ました。コンピュータ端末を用いて3分程度で施行できることから,スクリーニングには有用であると考えています。