日航機事故、阪神淡路大震災、東日本大震災と続き、検死業務の重要性がようやく注目されるようになった。日本医師会も警察医の全国組織化、検察医のレベルアップに本腰を入れたようである。多少、遅きに失した感がなくもないが、評価したい。しかし、現状では検案専門医を配置している地域はごく一部にすぎない。この事態をこのままで良いと誰も思ってはいまい。
私は、27年前より石川県金沢中警察署担当の「いわゆる警察医」を拝命している。石川県下で最も案件の多い署である。当方、もちろん法医学の専門医でもない一介の町医者にすぎない。当初、大変に面くらい、改めて必死に法医学書を買い求め、多少なりとも勉強したつもりであるが、あくまでも片手間仕事であることに間違いない。これで本当によいのであろうか?不安で一杯であった。
ただ、尿や分泌物などを利用した薬物反応試験の簡易・迅速化や、当県においては全国に先駆けてエコーを実験的に導入して一定の成果を挙げ、少しずつ進歩してきたのは事実である。特に近年、特筆すべきは死後CTの役割の大きさである。大変有難い思いをした症例も多い。だが、CTとて制約も限界もある。これですべて解決とはとうてい言えない。剖検医不足を知る故に、どうしても必要と判断したときのみお願いしているのが現状である。この前提のもと、開業医の警察医活動について、私なりの経験、現実を記したい。
県警と契約を結んでいる以上、出動要請があれば応えるのは当然である。深夜、早朝、時間外、多少身体はきついがOKだ。
こんな場合はどうだろう。月曜日午前9時、検案ありの電話、当方綱わたり経営のクリニックであっても月曜日くらいは比較的患者が多い。この時間帯は……。未練を残してゆく。また、ある冬の土曜日午前10時(インフルエンザが大流行していた)に要請があった。皮肉なことであるが、こんなときに限り、難しい判断をせまられたり、遠方の現場なのである。帰院、患者は1人もいなかった。従業員、家内の憮然たる顔。どのように答えればよいのだろうか?黙って書類を作成するしかなかった。
このようなことは稀ではなかったが、「捜査現場で汚れ仕事を黙々とこなしている諸君の働きぶりに接すると、粛然とし心の中で手を合わさざるをえない。患者数を気にして、一時的不利益に一喜一憂していた己が恥ずかしい」。これは、現在の偽らざる気持ちなのだが、当初は……。さて、警察医の業務は検案だけではない。
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