唱歌「うさぎとかめ」をご存じない方はいないであろう。「もしもし かめよ かめさんよ……」で始まるこの歌は、『教科適用幼年唱歌』二篇上巻明治34年版に掲載された。そしてルーツはイソップ寓話という内容からは、かめはたゆまない努力を惜しまなかったので勝った(勤勉のすすめ)が、うさぎは油断し、怠けて、居眠りをしたから負けた(油断大敵、居眠りは怠け)、と解釈されている。
小生は、地域医療振興協会の看護師の昇任面接試験で、「医療者たるあなたはかめ。寝ているうさぎの横にやって来た。どうする?」と問うたことがある。ほとんどの方が「レースなので、心の中でスマン、と言って声はかけない」と答えた。なんということか、医療者としてあるまじき対応、と心の中でつぶやいた小生はさらに聞く。「このレースは何時スタート?」「午前中か昼」、と皆が答えた。
かめは爬虫類、変温動物で、基本的に昼行性。夜のレースならまず勝てない。一方、うさぎは「うさぎうさぎ なにみてはねる じゅうごやおつきさま みてはねる」わけで、夜行性とは言わないまでも薄暮性。昼寝をして当然と解釈できないこともない。すると、うさぎとかめの新解釈「うさぎが薄暮性であり、昼寝をすることを知って、戦いを昼間に持ち込んだかめの作戦勝ち」という見方はいかがであろうか。『孫子・謀攻』にある「彼を知り己を知れば百戦殆からず」である。
さて、うさぎとかめの教訓「居眠りは怠け」を明治以来刷り込まれてきた日本人は「寝る間を惜しんで仕事をすること」が大好きだ。しかし睡眠不足はメタボリックシンドロームの危険を高め、前頭前野の機能を低下させ、判断を誤らせ、情動を開放させる。世界3大短時間睡眠国家(OECD、2014年調べ)のひとつのトップが推奨している「ゆう活」は早起き遅寝のススメ、すなわち寝不足のススメだ。今後、日本がどのような社会になるのか心配が募る。そろそろ睡眠軽視社会から、日本も卒業すべき時期にきているのではないかと結構本気で考えている。