若輩者ながら、諸大先生方の誌面に寄稿する機会を頂きありがとうございます。
さて、日本の医療制度も変化しうるときに、自由診療・渡航外来という側面から医療の質、医療倫理への思いを書かせて頂きます。
昨今、都市圏を中心にワクチン接種業務に力を入れている医療機関が急増している印象を受けます。未承認ワクチンの輸入や、従来の乳幼児定期予防接種業務に渡航ワクチン接種を増設されている施設も目立ちます。予防接種希望者や渡航者にとって接種施設の増加は利便性の向上というメリットがありますが、費用以外の見えない部分のリスクが伴い、どの施設を選択すべきか判断しにくい面もあります。医療側は自由診療と医療の質をいかに向上させるかという課題にも直面します。特に渡航医学では明確な質の指標“quality indicator”が設定されていないからです。
そこでまず、「渡航外来=ワクチン接種業務」ではないことを医療人・企業・国民に周知する必要があります。渡航外来はワクチン以外にも重点を置き、いかにアセスメントしていくかに手腕が問われます。
乳幼児定期接種同様、個々のライフスタイルや信条などを勘案しながら診療行為を進めます。渡航者に対して渡航中に起こりうる健康被害のみならず、生活上でのリスクやピットフォールなどの注意喚起や情報共有をすることから始まります。ワクチンよりもリスク・コミュニケーションのほうが大切だからです。価格競争の生じる自由診療となると、目に見えるコストでしか競争せず、医療の質の低下や接種記録の不提供、その他のコミュニケーションが不足(ワクチン接種のみ)する危険性があるのです。いかに内容が充実し、時間を惜しみなくかけた医療を提供できるかも評価基準となり、重要であるということは、海外でも報告されています。
先人の謂う「病気ヲ診ズシテ病人ヲ診ヨ」に倣い、医療技術や知識・経験値の恒常的成長からもたらされる医療の質の向上から、個々の受診者に最適な医療を提供する義務が我々にはあります。また、受診者には最善の医療を知る(得る)権利が保障されています。私自身、国内外の最先端の知識を受診者に提供すべく、今年も精進して参ります。