平成26年に80歳で亡くなられた作家、渡辺淳一は多くの作品を残しました。その作品は大きく3つの分野に分かれるそうです。「医療もの」「評伝」「男女の色恋もの」。その中で『光と影』『花埋み』『遠き落日』などは「評伝」であり「医療もの」的なものでもあります。そして「色恋もの」、男女の愛の機微を描いた作品は『愛の流刑地』『失楽園』へとつながる流れです。「医療もの」にも恋愛がからむもの、娯楽的要素を含む作品、ミステリー仕立ての作品もあります。まさに多作の作家、大作家です。
看護師が看護婦と呼ばれていた時代、医者のパターナリズムや権威主義の名残もみられ、患者─医師関係も現在と大分違いがあります。がん告知やインフォームドコンセントのことも同様です。登場する医師はほとんどが男性。そういう時代だったのでしょう。
作品では医療や研究倫理、生命の尊厳、そして生と死など多くが扱われています。医学生や卒業して間もない頃に読んだ時に思ったこと、感じたこと。その後長く医者をやってきて再読すると、より深い面で新鮮な発見や驚きがあります。それは「医療もの」、特に初期の作品、昭和40年代の『死化粧』『霙』『ダブル・ハート』『白い宴』『光と影』『雪舞』『優しさと哀しさと』、同じく昭和50年代の『神々の夕映え』『麗しき白骨』『白夜』などです。「医療もの」の表題には「白」がつくことが多い印象があります。実際には膨大な作品の中のごく一部です。作家の作風には色彩があると思います。白衣の色、医療の冷徹さ、冬の北海道の雪の色彩でしょうか。
私の一冊は、渡辺淳一としました。既に歴史的な大作家です。川端康成、三島由紀夫、松本清張と同じです。敬称は略しました。医師として一緒にお仕事をされた方も多いかと思います。失礼をお許し下さい。
今、再び渡辺淳一作品を読む。お正月、少し時間ができたら窓の外の冬景色を眺めながら、初期の「医療もの」を再読してみるつもりです。