1980年代、メジャーな外科に入局する女性医師は少なかった。私は「大門未知子」を夢見て消化器外科の教授室を訪れたが、招かれざる客だった。2年上の先輩は週に1度、1週間分の洗濯をするために家に帰るような労働環境だったが、手術の執刀は2学年下の男性医師と同じと聞き、入局を諦めた。それでも外科医になりたくて、透析患者に対して開頭開心以外のすべての外科手術を行うとのプレゼンに騙され腎臓外科に入局したが、そんな「ブラック・ジャック」のようなことはありえなかった。当時、腎臓外科と泌尿器科は同一医局として統括されており、気づけば泌尿器科医になっていた。だから、周囲から何故泌尿器科を選んだのか、と聞かれても、かっこいい回答ができない。
今や女性医学生の割合が30%を超えた。それを見越して日本泌尿器科学会は2006年、女性医師の勧誘を目的として「女性泌尿器科医の会」を設立した。初代委員長にさせられた私もメンバーも女性を特別視することに否定的だったが、泌尿器科女性医師の増加は社会にとっても良いことと考え、納得した。女性が働きやすい環境を整備するため、学会総会での託児所設置の義務化などを行った。2014年からは男性医師も加わり「男女共同参画委員会」としてメンバーを代えて活動している。
腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱に対する新しい術式、過活動膀胱に対する新規抗コリン薬が導入され、2000年前半から「女性泌尿器疾患」が脚光を浴びた。男性生殖器を扱う診療科という従来のイメージから、女性がアドバンテージとなる領域があることが認識され、女性医師が泌尿器科を選択しやすくなった。現在、女性医師は泌尿器科医師全体の約6%、50歳代ではたった2%だが、30歳代では13%、20歳代では15%強と着実に増加している。希望して泌尿器科医になったのではないけれど、尿道カテーテルが入りません、と聞くと未だにスタイレット片手にイソイソとし、膀胱タンポナーデと聞けばコアグラの引ける時の快感を想像しながら若者がギブアップするのを後ろで待つ私は、後天的ではあるけれど泌尿器科医が天職だったかなと思う。一昨年には「日本女性骨盤底医学会」を女性で初めて開催させて頂いた。あと少し、けもの道を進んでみたい。