元号が昭和から平成に変わった頃、さらに日本が高齢社会へと加速する中で、中高年の健康管理のあり方に世間の関心が高まった。特に女性の場合、更年期(50歳を中心として前後約5年の時期)に入ると、10代から継続してきた月経周期が終焉(閉経)を迎えるが、それはすなわち卵巣からの女性ホルモン(主にエストロゲン)の分泌が低下することを意味する。
女性ホルモン量が低下すると、単に月経周期が終わるだけでなく、更年期障害と呼ばれる様々な自覚症状が出現し、さらには(閉経後)骨粗鬆症や脂質異常症なども発症しやすくなる。私は当時、女性ホルモンの低下を起因とする各種疾患の予防と治療を目的とした更年期女性のための専門外来の開設に参画していた。
1991年4月、慶應義塾大学病院の婦人科外来に専門外来(中高年健康維持外来)が開設され、縁あって今日まで四半世紀にわたり、その診療に従事している。この外来において主力となる治療法が、低下していく女性ホルモンを外部から補充するホルモン補充療法(HRT)である。欧米では既に1960年代より施行されていたが、わが国では約30年遅れてこの頃より本格的に導入された。しかし、HRTのその後の歩みは必ずしも順風満帆ではなく、依然として欧米と比較しその普及率は低率のままである。それでも当外来に通院している患者には、この治療のメリット・デメリットを十分認識した上で10年以上の長期間にわたり継続している人が少なくない。
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