乳癌は、わが国において幅広い年代にみられ、罹患率と死亡率はともに増加の一途をたどっています。その第一の要因は、検診受診率が20~30%と低いことと考えられていますが、最近はマスコミでも乳癌の話題が多く取り上げられるようになり、以前より関心が高まってきています。
乳癌検診の啓発活動の一環として自己触診法の普及は有効な手段ですが、その指導はなかなか難しいものです。触診をして5mm程度でもわかるものもあれば、2cmを超えてやっと触知できるものもあります。乳癌の触診で様々な触り方をする理由は、他の臓器に比べて乳房の形状や内部構成の個人差が大きいからです。乳房の正常解剖について、解剖学の本にはあまり詳しく掲載されていませんが、正常乳房は解剖学的にどのようになっていて、どう変化することで個別性が生じるのかを知っておくとよいでしょう。以下に、乳房の個別性に関する詳しい説明をいたします。
①大小様々な「腺葉」:乳腺は乳頭から15~20の腺葉が乳房内に広がっていきますが、大きさは1枚ずつ異なり、乳房内での配置にも個人差があります。②「小葉─乳管」の枝ぶり:1腺葉には乳頭に1つ開口する1枝分の小葉─乳管が入っています。樹木にたとえると、枝の部分が乳管、葉の部分が小葉、幹の部分が乳頭となりますが、その枝ぶりや枝の太さ、葉の密度や大きさには個人差があります。③萎縮と脂肪化:枝や葉の間には間質(小葉外間質)があります。間質は線維や脂肪細胞などで構成されていますが、経年変化やホルモン環境によって脂肪に置き換わったり、小葉─乳管が萎縮したりします。この脂肪化や萎縮の程度にも個人差があります。
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