内分泌系の臨床検査は、甲状腺系などの一部を除き日常的に接する機会が比較的少ないため、診断を進める上で検査の手順に迷う先生からの相談も多い。そうした中で今回発刊された「内分泌臨床検査マニュアル」は、内分泌疾患の適正な診断を得るための現在最高のツールとして登場した。そのように聞くと、「類似したマニュアルがすでにいくつもあるのでは?」と疑問に思う先生もおられると思うので、私がなぜ本書を評価するかについて2つの理由を示す。
第一の理由は、通常の検査マニュアルがともすれば「検査の選択・結果の読み方」に重点を置いた内容となっているのに対し、本書は、臨床検査とは検査を通して「正確な診断」と「適切な治療」を行う流れの中の一ステップであるとして診療の基本的な流れを重視し、企画・編集されている点である。本書では、精度の高い診断を得るために検査の各論が網羅され、充実していることはもちろん、時に検査結果の評価がピットフォールに落ち込みがちなことを念頭に、「検査の注意事項」を独立した4項目として設定し、それがまた秀逸な内容となっている。さらに、検査後の「治療」への流れとして、代表的な病態に対する緊急治療マニュアルが完備されている点も高く評価できる。こうした点から、本書が単に「基準値内であるかどうか」を重視する既存の類似マニュアルとは別レベルの使いやすさと有用性を持っていることが容易に理解できる。
第二の理由は、各著者がいかに熱意を持って執筆にあたっているかを感じられる点である。その一例として、本書は2017年2月に発刊されたが、多くの項目で直近(2016年)の文献が引用され、2015年の文献と合わせると約20%という高率となっている。新しい文献の引用は、最新のガイドライン・研究成果をもとに時代に適合した検査情報を提供するだけではなく、各著者が本書をupdateするために最新の情報を勉強し、努力した証とも言えよう。
本書は内分泌学の第一人者である肥塚直美先生の見事な手腕により企画され、特色ある応用性の高いマニュアルとして完成した。この本は研修医、専門外の医師のみならず、内分泌科医も含め日常臨床を進める上での心強いマニュアルとして愛用されるものと確信する。