てんかんが高齢者で初発することを知らない医師が多過ぎるように思う。てんかんは子どもの病気という誤解があるため,高齢発症のてんかん患者が昼間の自動車運転中に追突事故を引き起こしても「認知症」「一過性脳虚血発作」「原因不明の失神」あるいは居眠り運転を想定して「睡眠時無呼吸症候群の疑い」「長時間睡眠を伴わない特発性過眠症の疑い」などと誤診されていることが少なくない。
わが国では正確な疫学データがないが,英国での頻度は65〜70歳で年間10万人に90人,80歳以上では10万人に150人と言われており,今後の高齢化社会で高齢発症のてんかんはますます増えると予想される。
高齢発症のてんかんの原因は,脳血管障害(30〜40%)をはじめとする加齢に伴う脳の器質性病変であるが,認知症にもてんかんを合併する患者がいる。また,脳血管障害発症から1年以内にてんかん発作を起こす危険率は一般人口の23倍である。
高齢発症のてんかんは非痙攣発作が多く,発作の症状はあっても軽微な意識障害,失語,麻痺などと多彩なため,その診断が非常に難しい場合が少なくない。「意識レベルが下がってボーッとして,動作が止まる」といった高齢者の「複雑部分発作」は痙攣を伴わないので見逃されやすい。しかし,昨今は高齢者のドライバーは増えており,たとえ「複雑部分発作」でも運転中に発症すれば大事故につながるので,高齢発症のてんかんには要注意である。
残り1,190文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する