ルッジェーロ・レオンカヴァッロ作曲の全2幕からなるオペラ、1892年初演。「衣装をつけろ」は「道化師」の中でカニオ(テノール)によって歌われるアリアの通称。マリオ・デル・モナコはイタリアのテノール歌手(DVD:キングレコード、2002年発売)
1961年、デル・モナコの再来日が決まった。多くのオペラファンは、首を長くしてこの日を待っていたという。その頃、私はまだ高校生でオペラなど聴いたこともなく、ましてや「デル・モナコ」という名前を知る由もなかった。公演は東京文化会館で行われ、デル・モナコは道化師に扮して有名なアリア「衣装をつけろ」を歌った。そのビデオを大学の同級生で大のオペラファンのH先生から頂いて観たのは、公演から実に20年以上もたってからのことである。
この曲を聴いた途端に、わたしの全身に電流が走ったことは今でも覚えている。なんと滑らかで美しい声だろう。声量豊かで、力強く声を張り上げているのに耳に優しい。激情にかられたこの道化師のはり裂けそうな心がひしひしと伝わってきた。いつまでも聞いていたいと思った瞬間、歌は終わった。男は派手な衣装をまとい鏡の中の自分の顔をみて、そのまま床に崩れ落ちた。そして幕がおりた。
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