うつ病は老年期にしばしばみられる疾患である
老年期うつ病の症状は,しばしば認知症の症状とオーバーラップする
老年期うつ病患者の中には,認知症へと移行する患者も少なくない
一方で,認知症にうつ症状が伴うことも少なくない
うつ病と認知症は,いずれも初老期から老年期に好発する疾患であるが,互いに症状がオーバーラップする部分があり,しばしば鑑別が難しい。老年期うつ病患者では抑うつ気分があまり目立たず,思考力の低下や注意・集中力の低下が前景に立つことも多く,生活機能の低下などから「認知症」と診断される例が少なくない。一方で,老年期のうつ病は認知症のリスク因子となることが知られている。この場合,鑑別というよりむしろ,うつ病の罹患が認知症発症に何らかの関与をしていることや,うつ症状自体が認知症の前駆症状や初期症状となっている可能性を考えなくてはならない。さらに,アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)やレビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)の患者では,うつ症状を合併することが少なくない。
このように老年期うつ病と認知症は互いに深い関連がある。本稿ではこれらの関係について,簡単に説明する。
老年期に限らず,「うつ」という言葉はしばしば異なる意味で使用されるため,混乱をまねいている。まず「うつ」という用語が疾患としての「うつ(うつ病)」なのか,状態像としての「抑うつ(うつ状態)」であるのかを区別する必要がある。状態としての「うつ」はうつ病だけでなく,ほかの精神疾患や認知症,また健常者にも起こりうる。うつ病の診断基準を表1 1)に示した。
老年期うつ病や認知症患者に関する臨床においては,「うつ状態」と「アパシー(無気力,感情鈍麻)」を区別することも重要である。うつとアパシーには共通する要素もあるため,はっきりと区別できるものではないが,それぞれに関する主要な症状を表2 2)に示した3)。
「うつ」とは基本的に情動・気分の問題であり,主観的な「抑うつ気分」が症状の中核である。抑うつ気分に伴い,不快感・焦燥感・自責感・悲哀感などがみられることや,睡眠障害や頭痛・腹痛などといった身体化症状が伴うことが少なくない。一方でアパシーとは感情鈍麻・意欲低下であり,不快感や感情不安定が伴わず,自発性・発動性の低下が目立つような状態である。興味や関心の低下はどちらの状態でも認められるが,うつ病患者ではそれらが不安や苦痛として訴えられることが多く,アパシーの場合には不安や苦痛の訴えがむしろほとんどみられない。
「うつ状態」は精神症状であり「うつ病」をはじめとする内因性精神障害に生じやすく,「アパシー」の状態は器質性の変化を示唆すると言われている。しかし,必ずしも精神障害と器質性疾患に区別できるものではない。
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