特発性正常圧水頭症(iNPH)は地域在住の高齢者の約1%に存在する病態である
くも膜下腔の不均衡な拡大を伴う水頭症(DESH)の所見はiNPHの診断に有用で,かつこの所見を有するiNPH患者へのシャント術の効果は大きい
わが国においては脳への直接的な侵襲を伴わないLPシャント術が選択される頻度が増している
正常圧水頭症(normal pressure hydrocephalus:NPH)は,脳室拡大を呈するが髄液圧は正常で,臨床的には認知障害,歩行障害,排尿障害という3徴を呈し,さらに髄液排除によって3徴が改善する病態として,1965年にAdams1)が報告した。NPHはくも膜下出血,髄膜炎,脳炎などの先行疾患のあとに生じる二次性NPHと先行疾患が不明確なidiopathic NPH(iNPH,特発性正常圧水頭症)とに二分される。
二次性NPHは,先行疾患のあとに通常行われる経過観察中に3徴が出現するが,その際に頭部CTやMRIを撮影すると,先行疾患治療時よりも脳室が拡大している脳画像所見が得られる。したがって,二次性NPHの診断が遅れることは少ない。また,シャント術によりほぼ全例で症状が改善することから,シャント術を行うべきか否か迷うことも少ない。
しかしiNPHは,潜行性に3徴が出現することや,この3徴が加齢性変化,ほかの認知症疾患,整形外科的障害,泌尿器科的障害などにより高齢者ではよく起こる,ありふれた症状であることから,見逃されることがある。加えて診断が遅れがちであることが影響している可能性もあるが,iNPHは二次性NPHと比較するとシャント術の効果に乏しいことがある。このため,iNPHの診療では,iNPHであるか否かという点とシャント術を行うべきか否かという点を並行して診断していくことになる。
本稿では,アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD),血管性認知症(vascular dementia:VaD),レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB),前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration:FTLD)の4大認知症の中で,iNPHとの鑑別が問題になりやすい前3疾患とiNPHとの鑑別診断に役立つ臨床的・神経画像学的所見について解説する。
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