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超高齢社会に求められる医師の養成[プラタナス]

No.4691 (2014年03月22日発行) P.1

葛谷雅文 (名古屋大学大学院医学系研究科発育・加齢医学講座地域在宅医療学・老年科学(老年内科)教授)

登録日: 2014-03-22

最終更新日: 2017-07-27

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超高齢社会に突入した我が国では、2025年問題に向けた医療・介護制度の改革が求められ、地域完結型医療を目指す「地域包括ケアシステム」の構築が現在進行中である。しかし、肝心なそのシステムを支えなければならない医師の教育・養成が遅れている感は否めない。実際、今でも総合診療や老年医学、在宅医療の十分な教育が行われていない医学部が多く存在すると聞く。

時代の変遷に伴う疾病構造の変化は明らかであり、高齢化率がまだ一桁であった時代は医療の主な対象者は若年者・成人であった。その時代が目指す医療は疾病診断であり治療であり、医学生が大学で習う臨床医学は診断学と治療学で十分であった。そこには障害医療、慢性期医療、終末期医療、在宅医療などの教育は存在しなかった。

しかし、国民の4分の1が高齢者となった現在、医療が関わる対象者の多くは高齢者、特に後期高齢者にシフトし、そのような対象者の疾病背景は若年者のそれと大きく異なる。寿命という介入不能な背景のもと、多病を抱え、診断されたとしても治療には至らない病態が多く存在する。同時に、認知機能障害、身体機能障害、摂食嚥下障害、栄養障害など多数の障害を抱え、終末期、看取りの問題が絶えず身近にある医療がそこにある。
病院完結型から地域完結型医療へのシフトに伴い、以前はせいぜい医師と看護師との連携で事足りたものが、介護・福祉関係、理学・作業療法士、言語聴覚士、薬剤師、栄養士、介護支援専門員、歯科医師など、多職種との協働が求められる時代となった。多病、身体・精神心理的障害を抱える高齢者を地域で包括的に診療するには、それなりの専門性、トレーニングが必要であることは言うまでもない。

それらの医療のパラダイムシフトに対して臨床医学教育の対応はあまりにも遅く、社会のニーズに合った医師の養成に十分な対応が取れていないと思うのは私だけであろうか。医学教育に関わってはいるものの専門家とは言えない私のようなものが発言するのは大変僭越ではあるが、将来に必要となる医療のビジョンを見据え、社会のニーズに合った、社会が必要とするような医療分野で働ける医師を養成するのが臨床教育を請け負う大学の、また研修病院の役割であると思うのだが。一人前の医師に育てるには時間がかかり、10年以上先の社会を見越しておく必要がある。

この国の医療の根幹を支えるのは医師であり、社会が求める医師の養成は必須である。医師の専門性に合わせて社会が変わるわけではなく、患者が作り出されるわけでもない。

名古屋大学大学院医学系研究科発育・加齢医学講座地域在宅医療学・老年科学(老年内科)教授 葛谷雅文(くずや まさふみ)

1983年大阪医大卒。91年米国国立老化研究所研究員、96年名大附属病院老年科を経て、2011年より現職。13年より同大地域医療センター長兼務。

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