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地産地消生活で細胞から若返る[プラタナス]

No.4689 (2014年03月08日発行) P.1

白澤卓二 (順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授)

登録日: 2014-03-08

最終更新日: 2017-08-09

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2013年の冬、ハワイ島のハワイ自然保護区のファームに滞在して、地産地消の生活を体験した。ここでの生活は文字通り地産地消、ファームで収穫される野菜や果物を食べて、自然保護区を散策する毎日を送った。 空気が森林や果物の香りに満ちていて、何日かこの空気を呼吸するだけで体が解毒される気分になった。

農場にはアボカド、バナナ、カカオ、ノニ、ビリバ、ココナッツが植えられていて、果物ナイフを持って農場を一周するとお腹がいっぱいになってしまう。ここで1週間生活をして、人間本来の食事は果樹園の散策から始まったのだと確信した。

農場主のスティーブ・ランドさんはパーマカルチャーを目指して農場をデザインした。パーマカルチャーとは、パーマネント(永久)とアグリカルチャー(農業)とカルチャー(文化)を組み合わせた造語で、オーストラリアのビル・モリソンとデビット・ホルムグレンが構築したシステムであり、人間にとって恒久的持続可能な環境系デザインになっている。単に生活環境がエコロジカルなだけでなく、よりオシャレでカラフル、豊かな香りに満ちた生産性のある生態系を構築している。

農場では、植物や動物だけでなく、建物、水、エネルギー、コミュニティなど生活すべてがデザインの対象になっていて、それぞれの要素が永続的に共存できる。私のように前日まで東京での多忙な都会生活を送ってきても、農場に入るなり、人間の質が自然の中に抵抗なく溶け込んでいき、生活の質が向上して精神的な充足感が得られる。

そして、この充足感が数日で都会では体験できない次元に達することに驚きを感じる。ここでの生活は日本の里山や世界の先住民族がしてきた生活を模範にしていることから、この充足感は人間が本来、ワイルドな自然に適応してきたプロトタイプの生活から派生したと思われる。

農場で採れる重要な作物の中にカカオがある。カカオの実は代表的なスーパーフードの1つで、パーマカルチャーに生活する人の精神的な高揚感を支える重要な化学物質を提供しているかもしれない。カカオの実は、マグネシウム、鉄、クロム、マンガン、亜鉛などのミネラル成分を豊富に含むだけでなく、非常に強い抗酸化能力があるので、理想的なアンチエイジング食材だ。興味深いことに、幸福感をもたらす神経伝達物質アナンダミドを含有する唯一の食材がカカオだ。チョコレートが多くの人に愛される理由も、この化学物質にあるかもしれない。

順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座教授 白澤卓二(しらさわ たくじ)

1982年千葉大卒。87年独ケルン大遺伝学研究所留学。90年東京都老人総合研究所研究員、同神経生理学部門室長、分子老化研究グループ部長等を経て2007年より現職。『100歳までボケない101の方法』(文春新書)など著書多数。 

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