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チャーリー・ガード事案に見る医療倫理【OPINION】

No.4870 (2017年08月26日発行) P.27

大関令奈 (東京大学大学院医学系研究科・医療倫理学分野医学博士課程)

三羽恵梨子 (東京大学大学院医学系研究科・医療倫理学分野専門職学位課程)

中澤栄輔 (東京大学大学院医学系研究科・医療倫理学分野講師)

赤林 朗 (東京大学大学院医学系研究科・医療倫理学分野教授)

登録日: 2017-08-24

最終更新日: 2017-08-23

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  • はじめに

    2017年7月28日、11か月のチャーリー・ガードちゃん(以下CG)が、英国でその短い命を終えた。CGの病気はミトコンドリアDNA枯渇症候群という非常に稀な遺伝性疾患で、適切な治療法が知られていない。両親はある研究者の提唱する実験的治療を受けることを希望したが、病院側はそれを無益であるとして意見が対立し、その適否は裁判で争われることとなった。一般の支援者のクラウドファンディングが130万ポンドも集まり、ローマ法王や米国トランプ大統領が自国での治療受け入れを表明するなど、世界的に注目される事件となったが、最終的に治療は無益であるとする病院の判断が支持された。本稿では、事案の経過を振り返り、生命・医療倫理的検討を加える。

    チャーリー・ガード事案の概要

    2016年8月4日、CGは英国に産まれた。生後数週で発育が悪いことがわかり、10月には呼吸状態が悪化、昏睡状態になり、ロンドンのグレート・オーモンド・ストリート病院へ入院した。精査の結果、遺伝性疾患である「ミトコンドリアDNA枯渇症候群」と診断され、さらにその中でも、非常に稀なRRM2B変異であることが判明した。

    CGは自分で筋肉を動かすことはできず、麻痺もあり、12月には痙攣を起こすようになった。呼吸筋も影響を受けていたため、人工呼吸器を必要とした。脳のMRIでは正常活動がみられなかった。本人が苦痛を感じているかどうかは、反応がないためはっきりしなかったが、医師の判断では様々な処置に伴って、苦痛を感じている可能性が高いとされた。

    病院は、根治は望めず、有効な治療法がないと説明したが、CGの両親は、米国でCGよりも軽症のミトコンドリアDNA枯渇症候群の患者に効果を示したという研究段階の治療―ヌクレオチド・バイパス治療(以下NBT)―を受けることを希望した。しかし病院は、その治療はあくまで研究段階であり、かつCGとは別の変異の症例への適応事例しかなく、CGに効果を示すという科学的根拠はないと主張した。人工呼吸器の使用を含めて治療を継続することは、本人にとっての最善の利益とならないとし、人工呼吸器を中止し、これまでも提供していた苦痛緩和治療のみを行い、尊厳をもった死を迎えることが望ましいと病院は考えたのである。両親と病院の意向は対立し、病院の訴えにより、2017年3月、高等裁判所はCGの治療方針について審理を開始した。

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