日本を代表する学者が語った「最終講義」を収録。実業之日本社から創業100周年の記念出版として刊行された(実業之日本社編、実業之日本社、1997年刊)
愛読している書物は多く、一冊を挙げることは非常に難しい。読者の方々にご紹介するものとして何がよいかとしばし悩んで、思いついたのが『最終講義』である。
1930~90年代の名高い最終講義を収録した一冊で、文学、哲学、文化人類学など分野の異なる方々17名の講義が掲載されており、いずれも時代と研究者・教育者の関係が生き生きと現れている。たとえば、論文が反戦思想として軍部などの攻撃を受け、大学に辞表を提出した矢内原忠雄教授が行った講義記録(1937年)も含まれている。
この本を購入したきっかけは、冲中重雄東大医学部教授の最終講義(1963年)が収録されていることを知ったことにある。冲中教授は、自律神経系の研究を中心に多大な研究業績をあげられたが、最終講義では、内科臨床における剖検の重要性を論じ、750例の剖検から集計された臨床診断での誤診(誤診率平均14.2%)を要約し、さらに臓器疾患系統別に主要な誤診症例に考察を加えられた。
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