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ピロリ菌の栄養源と効果的な除菌年齢

No.4688 (2014年03月01日発行) P.66

林 俊治 (北里大学医学部微生物学単位)

登録日: 2014-03-08

最終更新日: 2017-09-12

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【Q】

胃に寄生したピロリ菌は何を餌にしているのか。例えば,胃の細胞を食べているのか,あるいは体液・血液を吸っているのか,など。
また,30歳までにピロリ菌の除菌をすれば胃癌を99.9%防げると聞くが,効果的な除菌年齢の根拠と除菌に際しての注意点を。(兵庫県 T)

【A】

ピロリ菌は胃粘膜の粘液や上皮細胞から栄養分を得る。ピロリ菌の除菌は若いうちに行ったほうが,胃癌予防の効果が大きい。除菌治療の注意点として,下痢などの副作用,除菌後の逆流性食道炎などに気をつけるべきである

ピロリ菌の栄養源

ピロリ菌は栄養要求性が比較的高い細菌であり,多くの栄養分を菌体外から取り込んで使用する。例えば,アミノ酸の多くを栄養分として取り込み,菌体をつくるための材料およびエネルギー源として利用する。さらに,糖分もエネルギー源として利用する。また,ピロリ菌はコレステロールを取り込み,自らの膜脂質を強化するのに利用する1)。これは免疫系などの攻撃から身を守るために必要なメカニズムであると考えられている。

ピロリ菌は胃粘膜の粘液ゲル層に生息している。したがって,胃粘液に含まれる成分から栄養分の多くを得ていると考えられる。具体的には,胃粘液の主成分である糖蛋白質やムチンを栄養源として利用する。しかし,コレステロールは,ピロリ菌が胃粘膜の上皮細胞から得ていることが報告されている2)。そのほかの栄養分についても,上皮細胞から得ている可能性がある。しかし,上皮細胞を積極的に破壊し,自らの栄養分にしているわけではない。

また,胃は食物が入ってくる臓器であり,ピロリ菌が食物から直接栄養を得ている可能性もある。しかし,胃の中の食物はまだ十分に分解されておらず,栄養分として利用するには不適当である。したがって,胃の中の食物から得る栄養分は限定的なものと考えられる。

効果的な除菌年齢

ピロリ菌の持続感染は発がんにおけるプロモーターとして働くと考えられている3)。つまり,感染の持続時間が長ければ長いほど,胃癌が発生するリスクは上がる。したがって,ピロリ菌を除菌する年齢は,若ければ若いほどよいということになる4)。除菌を30歳台までに行えば,大きな胃癌予防効果が期待できると考えられている。

さらに,萎縮性胃炎が進行した40歳台や50歳台での除菌でも,一定の効果は期待できるとされている。ただし,具体的に何歳で除菌すれば,発がんリスクがどの程度下がる,といった数値に関する議論は,今後の疫学調査の結果を待つべきであろう。

若いうちに除菌すべきとの考え方に基づけば,未成年のうちに除菌するのが最も効果的ということになる。しかし,薬事法で定められている除菌治療の効能効果欄には,未成年者に対する効果が記載されていない。したがって,未成年者に除菌治療を行う場合には,患者およびその保護者の同意が必要である。

高齢になってからの除菌の効果は限定的と思われるが,胃癌の発生リスクを少しでも下げるという視点に立てば,高齢である場合も除菌をしたほうがよいと考えられる。以上をまとめるとすれば,ピロリ菌の除菌に年齢制限はないが,若ければ若いほどよいと考えてよいであろう。

除菌に際しての注意点

現在,ピロリ菌の除菌治療には,抗菌薬2種類とプロトンポンプ阻害薬1種類を組み合わせた3剤併用療法が用いられている。これは副作用の少ない処方であるが,抗菌薬を投与するからには,腸内細菌叢に何らかの悪影響を与えることになる。その結果,服薬期間中に下痢や軟便を起こすことがある。また,稀ではあるが,3剤併用療法による菌交代現象を原因とした偽膜性大腸炎が起きることがある5)。そのほかの副作用としては,味覚異常や発疹などが報告されている6)

除菌治療中の副作用のほかに,除菌成功後に注意すべき点もある。例えば,ピロリ菌の除菌成功後に胃酸分泌が亢進し,逆流性食道炎を起こすことがある。また,除菌成功後に食欲が亢進し,体重が増加する例がある。体重の増加は様々な疾患につながる可能性があり,注意が必要である。

ピロリ菌の除菌治療が一般化されるに伴い,「ピロリ菌を除菌してしまえば,胃癌の定期検診は不要である」といった安易な考え方が生まれてきているが,これは誤りである。ピロリ菌の除菌は胃癌の発生リスクを下げるものではあるが,胃癌を完全に予防するものではない。したがって,ピロリ菌の除菌に成功しても,定期的に胃癌検診を受ける必要がある。

【文 献】

1) Shimomura H, et al:FEMS Microbiol Lett. 2009; 301(1):84-94.
2) Wunder C, et al:Nat Med. 2006;12(9):1030-8.
3) Genta RM:Eur J Gastroenterol Hepatol. 1995;7(Supppl 1):S25-30.
4) Lee YC, et al:Gut. 2013;62(5):676-82.
5) Harsch IA, et al:Med Sci Monit. 2001;7(4): 751-4.
6) Miwa H, et al:Aliment Pharmacol Ther. 1999; 13(6):741-6.

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