No.4686 (2014年02月15日発行) P.23
宇田川 響 (国立がん研究センター東病院呼吸器内科)
大松広伸 (国立がん研究センター東病院呼吸器内科副科長)
大江裕一郎 (国立がん研究センター東病院呼吸器内科科長,副院長)
登録日: 2014-02-15
最終更新日: 2017-09-15
左横隔膜(赤線)と下行大動脈(黄線)のシルエットが消失している.左心に重なる血管影は認められず,代わりに浸潤影を認める.左CPA(costophrenic angle;肋骨横隔膜角)の鈍化あり.
常日頃より,異常影の有無のみならず,見えるべき既存構造がきちんと見えているかを確認しながら系統的に読影することが重要である.
本症例の場合,左下葉の広がりを確認しようとすると,左横隔膜や下行大動脈のシルエットが消失し,左心に重なる血管影が認められないことに気がつく.また,左主気管支を末梢側に追跡していくと,左上葉支の分岐部のすぐ遠位で左下葉支が閉塞している(矢印)ことが分かる.心陰影と重なる部分に気管支透亮像を伴った浸潤影を認め,左横隔膜と下行大動脈とのシルエットサインが陽性であるため,左下葉の閉塞性肺炎ないし無気肺を示唆する.
a・b:肉眼像では,左下葉支に有茎性の腫瘤を認める(矢印).下葉は無気肺となっていた.
c・d:顕微鏡像では.気管支上皮下に多数の毛細血管の増生を認める.明らかな悪性所見は認めなかった.
以上より,血管腫(capillary hemangioma)と診断された.
第3回でも解説しているが,胸部X線写真における無気肺の所見は直接所見と間接所見に分けられる.
直接所見:含気の減少による濃度上昇であり,肺葉別に特徴的な無気肺陰影を呈する.
間接所見:肺容積の減少や胸腔内圧の変化によって起こる.横隔膜の挙上や肺門・縦隔・心陰影の偏位,正常肺の代償性過膨張,患側の肋間腔の狭小化などが見られる.
本症例では直接所見の心陰影に重なった濃度上昇を認めたが,横隔膜の挙上や縦隔の偏位などの間接所見は認めなかった.心陰影に重なる異常陰影は見逃しやすく,本症例のように側面像が有用となる場合もある.
気管支に発生し無気肺を引き起こす腫瘍の多くは扁平上皮癌などの悪性腫瘍であるが,本症例のように血管腫などの良性病変の場合もあり,臨床的には肺癌との鑑別に悩む場合がある.胸部X線写真では,本症例のように無気肺を呈する場合もあれば,気管支内の腫瘤影のみの場合もあるため,気管支陰影に異常がないか注意深く読影する必要がある.また,二次性の肺炎を合併することも少なくないため,市中肺炎との鑑別も重要である.
血管腫