第1回では便秘に関する様々な症例を,第2回ではガイドラインをはじめとする様々な便秘の定義を紹介し,腹部単純X線(以下,腹部X線)による診断の重要性を述べた。今回は,実際に便秘を診断するにあたって知っておきたい画像の見方を述べる。
読影のコツなども紹介するが,その主眼は腹部X線所見を通して透視力を高めて「病態を理解する」ことにある。決して「所見」を探すことを目的としているわけではない。
第2回で述べたように,便秘診断において腹部X線を撮影する理由は,腹部の状態を腸管の走行,便の溜まり具合を視覚化して客観的に診断するためである。繰り返しになるが,患者の主訴も治療の要求度も様々で,その診断は一筋縄ではいかない。「便通は悪くない」と言う『かくれ便秘』症例は,画像診断を用いなければ診断できない。
腹部X線は開業医でも簡単に撮影することができるという利便性がある。問診や触診などに加えて,腹部X線を初診時に撮影し,腹痛の程度と照らし合わせて,臨床推論を働かせることにより,治療の優先順位を評価する。積極的な便秘治療を行うためにも,腹部X線所見による確認を行うことをルーチンとすることで診断精度を上げられる。患者が「便秘」と訴えても,実際には結腸癌と判明することもあり,症例によっては「緊急手術や入院加療が必要なのに重篤感が希薄な症例」を診断するきっかけとなることがある。
なお,CTを撮影する場合では,腹部X線の自己学習のためにCTの位置決め画像(以下,scanogram)を腹部X線としてCTの異常所見と比較検討し,読影の練習として活用することができる。
便秘のほかに腹部X線所見から推測できる疾患として,腸閉塞,腸管穿孔,直腸癌,腹水,肝肥大・脾腫,心拡大・うっ血性心不全,大動脈瘤,腹部の腫瘤,腸腰筋膿瘍,骨転移などが挙げられる。画像上の特徴的な所見については,後述する。
腹部X線診断においては,腹部の状態をX線透視で認識することであり,小腸のニボーや横隔膜下のfree airを確認することが目的ではない。胸部X線はコントラストがはっきりしているので異常を認識しやすいが,腹部は充実性臓器で占められるため画像に濃淡の差異がつきにくく,読影しにくいかもしれない。しかし,腹部の触診をするように解剖を意識して,充実性臓器とガスの存在から管腔臓器を見わけるようにすると読影がしやすくなる。
基本は臥位正面撮影であり(scanogramも同様),1枚しか撮影しない場合は臥位を選択する。必要に応じて立位も撮影する。腹部を触診したときと同じイメージの腹部の情報を入手するためにも,臥位がよい(基本的に腹部の診察は臥位で行うため)。臥位では各臓器があるべき位置に収まり,ガスのある消化管も重ならず,分離しているため同定しやすい。一方,立位では肝臓や腎臓など充実性臓器は下垂し,ガスのある管腔は上方へ移動する。食残や便のある消化管も骨盤内に落ち込んでしまう。立位でしか撮影できない場合には,これら充実性臓器の下垂とガスが上方へ移動することを意識して読影するとよい。
ちなみに,free airの有無を評価するのは立位の胸部単純X線で,立位の腹部X線では診断できない。撮影条件(電圧)が異なるからである。臥位ではガスが前方に移動するため,肝臓と横隔膜の間にfree airを認識できないことが多い。腸管穿孔や腸閉塞を疑う際は立位と臥位を両方撮影するか,筋性防御やheel drop test陽性など急性腹症を疑うときは最初からCTを撮影するのがよい。
撮影範囲は,左右の横隔膜,肝臓から骨盤までを含むようにする。基本的に呼気の恥骨まで入れたKUB(kidney,ureter,bladder)でよい。大柄な患者では,呼気でKUBで撮影するか,上方を追加で撮影する。
読影の順は特に決める必要はなく,見やすいところから見ていけばよい。「いつもと何か違う」という直感など,非科学的な印象が診断に生きてくることもある。ただし,過不足なくすべてを確認することは重要であるため,確認すべき項目はチェックする。
表1に,便秘の診断で確認すべき項目を抜粋した。
正しい読影ができるようになるために,既に診断がついている症例でCT所見と比較をするのがよい。