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便秘の診断・治療をどうする[便秘を視て診る〜もっと!X線を活用しよう(4)]

No.5252 (2024年12月21日発行) P.16

西野徳之 (総合南東北病院消化器センター長)

登録日: 2024-12-20

最終更新日: 2024-12-18

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1 プライマリ・ケアでみる便秘

(1)プライマリ・ケアとは

日本プライマリ・ケア連合学会によれば,プライマリ・ケアとは「国民のあらゆる健康上の問題,疾病に対し,総合的・継続的,そして全人的に対応する地域の保健医療福祉機能」と説明されている1)。患者からすれば,普段から何でもみてくれ,相談にのってくれる身近な医師による医療と言ってよいであろう。専門診療科別の専門医(スペシャリスト)と区別して,総合医(ジェネラリスト)とも呼ばれ,家庭医療,総合診療,総合内科や小児科などの医師がこれにあたる。そのための専門的なトレーニングを受け,患者が抱える様々な問題に対していつでも幅広く対処できる能力を身に付けており,「何でもみることのできる専門医」と言うこともできるだろう。必要なときは最適な専門医へ紹介したり,在宅診療や地域の保健・予防などを行ったりして,住民の健康を守っている。

プライマリ・ケアは,すべての臨床医に必要な能力とされるものの,わが国では欧米と異なり,長い間「プライマリ・ケア医としてのスペシャリスト」は存在しなかった。しかし,近年は病院と診療所などが密接な連携を取る病診連携が重視され,プライマリ・ケアを専門にする医師も増えてきた2)。「人々が健康な生活を営むことができるように,地域住民とのつながりを大切にした,継続的で包括的な保健・医療・福祉の実践及び学術活動を行うこと」を目的とした日本プライマリ・ケア連合学会の会員は,2024年4月末時点で約1万人を超えている1)

高齢化や生活習慣病なども背景として,今後さらに必要とされる存在である。最近,総合診療科は研修医にも人気の高い選択診療科となってきている。

(2)プライマリ・ケアで遭遇する便秘の診断と治療

便秘症は,風邪とともに,プライマリ・ケアで最も触れる機会が多い疾患のひとつである。便秘症は通常,症状(便形状や頻度)や排便習慣などについて問診で確認する。しかし実際には,患者本人が「便通は良好」と訴えても,便の停滞が多く便秘の治療をしたほうがよい『かくれ便秘』の症例もいるため,画像診断で便の貯留が多くないか確認しておくことも大切である。慢性的な便秘症例では,便が出ないことに慣れてしまうことも少なくない。

治療すべき病態であるにもかかわらず,本人に自覚がなければ,問診だけではその診断は難しい。腹部単純X線(以下,腹部X線)や腹部CTによって客観的に診断することの重要性は前回までに述べた通りであるが,実際には,CT画像で便の貯留が多くみられたとしても,それを放射線科医でさえ「あたりまえ」としてしまい,治療すべき異常とは認識せず指摘していないこともある。本稿では,改めて便秘症の診断の意義を中心に解説していきたい。

2 便秘診断の考え方と実際

そもそも,便秘症はあまりに普遍的で,患者本人が病気であると認識をしていないことが多い。患者は便秘を意識したときに薬局で便秘薬を購入することはあっても,便が出にくいというだけで「病院へ行こう」とは考えないことが多い。あるアンケートでは「便秘のために病院へ行く」のは,わずかに2.7%であったという結果もある(☞第1回参照)。 便が出にくい状態は,糖尿病や腎不全,結腸癌など多様な疾患の一症状としてみられるし,薬剤情報にも必ずといってよいほど有害事象のひとつとして便秘が示されている。

また,便秘の病態は個人差がある。同じ薬で効く患者もいれば,効かない患者もいる。内服を継続していても,時折排便がないこともあれば,下痢をすることもある。便秘症を恒常的に管理することは非常に難しい。

『便通異常症診療ガイドライン2023─慢性便秘症』(以下,ガイドライン)では「慢性便秘症の診断基準」が示されているが,「慢性」であることの診断基準には,「日常診療においては,患者を診察する医師の判断に委ねる」として,プライマリ・ケア(日常診療)においては「慢性」を具体的な期間で診断するのではなく,その患者の診察にあたっている医師が判断できる旨が付記されている3)(後述)。日常診療に寄り添ったガイドラインではあるが,かえって診断と治療の判断に迷うことがあるのかもしれない。

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