便秘症に対する考え方は医療者の中でもとらえ方が違うが,それ以上に患者のとらえ方が我々医療者サイドとはまったく違うことに気づく必要がある。
この連載第1~4回で述べてきたように,実は便秘症の診断はそれほど簡単ではない。なぜなら,その定義が,「主に患者によって主観的に評価される」からである。腹部単純X線(以下,腹部X線)や腹部CT画像で便の貯留が多い場合でも,患者はその貯留を自覚できていないことが多いのである。これら画像診断をすることの利点は,画像を患者と共有することで,客観的に便の貯留が便秘と診断でき,治療が有効であることを説明できる点である。治療後に症状の改善を確認するだけでなく,治療前後の画像を比較することで,改善を患者自身に理解してもらえる。腹部CTを短期間に2回撮ることは推奨できないが,腹部X線なら再度撮影することに躊躇する必要はない。
便秘症の状態は,治療が必要なものであり,改善すべき状態である。富田らは,3373人の慢性便秘を持つ患者の調査から,平均健康関連生活の質(health-related quality of life:HRQoL)スコアが低く,平均欠勤率が高いほか,在勤時の生産性低下,総労働生産性および活動障害,および間接コストが高かったことを報告している1)。
「便通は悪くない」と思っていても,『かくれ便秘』(hidden constipation)である人は少なからずいる。それを便秘症と診断するためには,客観的評価が必要になる。その評価の一手段として,簡便で,短時間で済み,安価で侵襲の少ない汎用性のある検査である腹部X線を活用してほしい。画像診断にはある程度の経験が必要になるが,本連載を一読いただければ,それは十分に達成されるものと思う。
便秘症の診断がつき,薬物治療を開始するにしても,薬のみで対応するわけではない。便秘症を改善するための食生活,運動,生活習慣,排便習慣などを指導し,根本的な改善をめざすことが大切である。
繰り返しになるが,便秘症の病態は患者によって千差万別であり,その訴えも多種多様である。そして,単独で便秘症だけを有するというより,基礎疾患があって,もともと便秘症以外の治療を受けている場合も少なくない。
また,便秘症は状態が変化する病態でもあり,便通が悪いときは内服を勧めるが,便通が良くなるときもあり,便が緩くなるときは内服を減らしたり休薬したりしてよいことも,伝えておく必要がある。食生活や運動だけでなく様々な工夫があり,患者の生活をふまえて提案をしていく。これらの改善が奏効すると,患者が自身で管理できるようになり,内服しなくても便通が改善する患者も出てくる。便秘症の治療は処方がすべてではない。便通を改善する工夫を処方も含め指導していくことが大切である。