2007年にDalmauらが「卵巣奇形腫に関連する傍腫瘍性抗NMDA受容体脳炎」を報告して以来、近年その疾患の病態が明らかにされてきました。
抗NMDA受容体脳炎は、脳内の興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸の受容体(NMDA型グルタミン酸受容体)に自己抗体ができることで起こる急性の辺縁系脳炎です。重症例では死に至る場合がある一方、迅速な治療介入により著しい回復が見込める疾患でもあります。また、卵巣奇形腫などの腫瘍に関連して発生する傍腫瘍性神経症候群と考えられており、髄液中の抗NMDA受容体抗体が検査できるようになってからは、腫瘍を随伴しない症例も多数あることが報告されるようになりました。
典型的な臨床経過は、卵巣奇形腫を持つ若年女性が感冒などで発熱した後、統合失調症様の精神症状、痙攣、記憶障害、意識障害を急性に発症し、その後数カ月にわたる昏睡時期を経て自然転帰で軽快し、最終的には完全に回復します。重症例では中枢性低換気が起こり一過性に数日から数カ月に及ぶ人工呼吸器管理を要することもあります。
重篤例では、抗NMDA受容体抗体検査が可能となり診断されるケースが多くなってきましたが、軽症や非典型例の場合、多様な臨床像を呈するため、未だに難治性てんかん、奇異な不随意運動、統合失調症、慢性疲労症候群、解離性障害、心因性疾患と精神科で診断され、診療に苦慮されているケースが少なくありません。
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