【Q】
アンチエイジングなどの視点から,夜間の成長ホルモン(growth hormone;GH)分泌を増やすためには早寝が良いと言われているが,覚醒時と睡眠時では,GHの分泌量にどのくらいの違いがあるのか。
(和歌山県 T)
【A】
睡眠とGH分泌は深く関連しており,睡眠開始後にGHのパルス状分泌が起きる。睡眠中のGH分泌は年齢,性差の影響を受け,若年男性では1日のGH分泌量のうち約60〜70%が,若年女性では5割未満が睡眠中に分泌される
GHはメラトニン,プロラクチンなどのように睡眠に関連した分泌パターンを示す代表的なホルモンである。睡眠とGHとの双方向性の密接な関連性は今から40年以上も前に報告されている1)2)。GHは骨や筋肉の成長・発達のみならず,インスリン様成長因子(insulin–like growth factor;IGF)とともに脳の発達,記憶などにも関与している。GHは下垂体前葉から分泌され,GH分泌は視床下部からの2つのホルモンにより調節されている。成長ホルモン放出ホルモン(growth hormone releasing hormone;GHRH)はGH分泌を刺激し,ソマトスタチンはGH分泌を抑制する3)。さらにGH分泌は,胃内分泌細胞より分泌され,食欲亢進作用を有するグレリンにより促進される。
GHは1日を通してパルス状に分泌され,特に睡眠開始後の徐波睡眠の出現と深く関連している。睡眠後,間もなく,徐波睡眠の開始とともに突発的なGH分泌のパルスが起こる。睡眠開始後のGHのパルス状分泌は24時間で見られるものの中で最も大きい4)。健常な男性では睡眠中のGH分泌の約7割が徐波睡眠中であったと報告されている5)。したがって,GH分泌は睡眠中では徐波睡眠中に多いが,それ以外の睡眠段階においても見られる。
GH分泌は睡眠相がシフト(前進や後退)しても,睡眠開始直後に誘発され,睡眠の分断化はGH分泌に抑制的に働く。GH分泌は徐波睡眠の剥奪により減少するが,その後の睡眠ではさらに大きなGH分泌が代償的に見られる。
夜勤者では,日勤者に比べて,睡眠中のGH分泌は少ないが,その分日中のGHのパルス状分泌の頻度が増加したと報告されている6)。GHが減少している成人では,GH分泌を増加させるGHRHなどの投与により,睡眠覚醒リズムが改善し,生活の質が改善する可能性が考えられている。若年男性では,GABA(γ–aminobutyric acid)の代謝産物であり,選択的5HT2受容体刺激薬であるgamma hydroxybutyrateの就寝前投与により,徐波睡眠の増加とともに睡眠開始後のGH分泌が有意に上昇した。一方,徐波睡眠を増加させないGABAA受容体に作用するベンゾジアゼピン系睡眠薬の投与では,睡眠中のGH分泌は変化しなかった。
覚醒時と睡眠時のGH分泌の違いが明らかとなるのは生後3カ月である。GH分泌は性差による影響が大きく,女性では男性に比べてGHのパルス状分泌が1日のうちに高頻度に見られる。健常な成人女性では,睡眠中に占めるGH分泌量は1日の分泌量のうちの5割未満である。一方,男性では睡眠に関連したGH分泌が顕著に見られる。健常な成人男性では,睡眠開始後のGH分泌量は1日のGH分泌量の約60〜70%を占める。加齢による変化として,男性では30歳台から睡眠に関連したGH分泌が減少し,50歳以降にはほぼ消失するとされる。一方,女性では閉経後から睡眠に関連したGH分泌が減少してくる(図1)3)4)。
前述した睡眠とGH分泌との密接な関連以外に,GH分泌は概日リズムの調節を受けている7)。睡眠開始後のGH分泌はGHRH拮抗薬により,ほぼ完全に抑制されること,GHRHはノンレム睡眠(浅睡眠と徐波睡眠)を促進することから,徐波睡眠の開始とともに見られる夜間のGH分泌は視床下部GHRHニューロンにより主に刺激されている。また,GH分泌が上昇する夜間は視床下部からのソマトスタチン分泌が減少し,グレリン分泌がピークに達する時間帯でもある。しかし,若年者ではGH分泌は睡眠をとる時間帯にかかわらず,睡眠開始に依存しており,概日リズムの影響が明らかとなるのは睡眠剥奪や睡眠負債といった必要な睡眠が足りていない状況下である。高齢者では睡眠開始前にもGH分泌が見られ,概日リズムによる分泌調節を反映している。
●文 献
1) Sassin JF, et al:Science. 1969;165(3892): 513-5.
2) Takahashi Y, et al:J Clin Invest. 1968;47(9): 2079-90.
3) Obal F, et al:Sleep Med Rev. 2004;8(5):367-77.
4) Van Cauter E, et al:Principles and Practice of Sleep Medicine. 5th ed. Kryger MH, et al, ed. Saunders, 2011, p291.
5) Van Cauter E, et al:Growth Horm IGF Res. 2004; 14 Suppl A:S10-7.
6) Brandenberger G, et al:J Sleep Res. 2004;13 (3):251-5.
7) Morris CJ, et al:Mol Cell Endocrinol. 2012;349 (1):91-104.