世界保健機関(WHO)で天然痘根絶プロジェクトを主導した蟻田功氏による、計画着手から根絶達成に至るまでの活動の記録。毎日新聞社から1979年に刊行
最近面白かった本はH. Gilbert Welchの“Less Medicine, More Health”(Beacon Press, 2015)である。著者のWelchは “Overdiagnosis in Cancer”(J Natl Cancer Inst, 2010)など多くの学術論文を公表している。一般の読者向けのこの本には、「7 Assumptions That Drive Too Much Medical Care」という副題がつけられている。
人類がその歴史の中で、病原微生物を完全に封じ込めることに成功し、地球上からの根絶が達成された疾患は、唯一、天然痘(痘瘡)のみである。
根絶計画における有効な手段として用いられたのは、エドワード・ジェンナーによって始められた人類初のワクチン「種痘」であった。ヒト以外の自然宿主がない天然痘ウイルスは、予防ワクチンで患者発生をゼロにまで制御し、その状態を一定期間維持することで地球上から消滅した。
天然痘との闘いの歴史は長い。かつては世界各地で流行が起こり、本ウイルスの標的となった多数の命が奪われた。
根絶の達成により、この酸鼻な病魔から逃れることができたことに加えて、天然痘に対する検疫やワクチンを中止することができた。それは大きな費用対効果につながり、ワクチンの副反応を被る者もゼロとなった。
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