日本民族の祖先は遙か南方から「海上の道」を北上し、沖縄の島づたいに渡来したという雄大な仮説を描く。岩波書店から1978年に刊行。
人生を転換させる本はそれほど多くはない。岡山大学医学部生であった頃、柳田邦男著の『ガン回廊の朝』を読み、東京の国立がんセンター病院で働きたいと思った。レジデント採用の条件として2年間以上の臨床経験が必要であったため、虎の門病院内科に2年間勤務した後、国立がんセンター病院のレジデントになった。
今回、私の一冊として取り上げたのは、同じ「柳田」繋がりで柳田国男著の『海上の道』である。琉球大学医学部第一内科教授に赴任後12年以上が経過し、また附属病院長として、3年目を迎えている。何かの縁があって沖縄に呼ばれたのだと感じている。
『海上の道』を読んで感じるのは、柳田国男が日本文化、あるいは日本人の由来そのものが沖縄にあることを民族学の視点から証明しようとしていることである。遠慮がちではあるものの、椰子の実や宝貝を用いて、「海上の道」の存在を実証しようとしている。
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