No.4880 (2017年11月04日発行) P.74
仲野 徹 (大阪大学病理学教授)
登録日: 2017-11-01
最終更新日: 2017-10-31
これまでに食べたもののうち、いちばん不味かったもの、と尋ねられれば、即座に答えることができる。東西の壁がひらく直前のプラハで食べたソーセージだ。ガラス越しに見える店内で、労働者たちがあまりに美味しそうに食べていたので、言葉もわからないのに、勇気を出して店にはいった。
大きめのを2本注文した。おもいっきりかぶりついたら、びっくりするほど不味かった。しかし、周囲の人たちは美味しそうに食べているのだから、はき出すわけにはいかない。あまりに失礼だ。かろうじて1本だけを食べきって、店を後にした。
その味は鮮明に覚えている。が、何に喩えたらいいかわからない。食べ物ではないような味というべきか。旧共産圏の食べ物というのは、そういうものだったのだろう。
さて、いちばん美味しかったものは、となると難しい。いろいろな美味しいものを食べてきたけれど、ぶっちぎりでこれ、というのが思い浮かばない。美味しいお店というのも、和洋中エスニックいろいろあって、ひとつに絞ることなどできない。
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