2009年に発表されたガイドライン第3版で不明確であった早期治療としての予防的抗菌薬投与の是非や経腸栄養の開始時期,蛋白分解酵素阻害薬・抗菌薬膵局所動注療法(動注療法)の位置づけが,2015年に上梓された第4版では明確化された
急性膵炎における,abdominal compartment syndrome(ACS)の重要性と診断,治療に関する記載が追加された
急性膵炎に伴う膵局所合併症の分類が国際的なコンセンサスのもとに改訂Atlanta分類として発表されたため,それに基づいて診断・治療体系が改変された
急性膵炎の膵局所合併症への治療方針に内視鏡的ドレナージや後腹膜ドレナージなど,低侵襲治療が導入され,従来の感染性膵壊死には開腹壊死部切除をいきなり行わず,低侵襲から段階的に侵襲度の高い治療へ移行するステップアップアプローチが推奨された
急性膵炎は膵酵素の膵内活性化による膵の自己消化を本態とし,無菌的に発症する。その後,急性膵炎の経過中に膵および膵周囲に感染をきたすことがあり,そのほとんどで膵に発生した炎症が全身に広範囲に波及した重症急性膵炎を合併する。重症急性膵炎は良性疾患でありながら死亡率が20%に達する重篤な疾患であり,感染による敗血症の克服が大きな課題である。
急性膵炎に関連して起こる感染性合併症の分類と定義は,これまで1992年に米国・アトランタで開催された国際膵炎シンポジウムにおいて策定された急性膵炎に伴う局所病変を定義したAtlanta分類に基づいていた1)。すなわち,膵感染症を感染性膵壊死(infected pancreatic necrosis)と膵膿瘍(pancreatic abscess)に大別し,その病態が定義されてきた。それ以降,その概念に基づいて治療が進められてきた。また,膵膿瘍は膵近傍に発生した周囲を囲まれた腹腔内の膿貯留で,膵壊死はわずかか,まったく伴わないものと定義され,基本的なドレナージのみで治療可能であるが,感染性膵壊死は内部に壊死を伴うので,外科的壊死部切除術(ネクロセクトミー)が必須であるとされてきた。
わが国の「急性膵炎診療ガイドライン」でもそのように記載されてきたが,一方で,実際は膵膿瘍を感染性膵壊死と判別することが現行の画像診断では困難であると指摘されてきた。たとえば,2003年の厚生労働省による急性膵炎全国調査を解析した結果2)では,膵膿瘍と診断された症例の致命率(23%)は,感染性膵壊死と診断された症例の致命率(25%)とほぼ同等で,決して低くないことが報告されている。
これは膵膿瘍と診断されても,実は内部に壊死組織を含んでいたために,壊死部切除や外科的ドレナージが必要であった症例の予後が不良で,さらに経皮的ドレナージのみで治療した症例の致死率も20%と高いことに起因していた。このことは,内部に壊死を伴わないような膵膿瘍はほとんど存在しないことを示唆している。
このような旧Atlanta分類の不都合から,様々な経緯を経て,2013年に新しい急性膵炎に伴う膵局所合併症に関する国際コンセンサスが改訂Atlanta分類として発表された3)。
この改訂の骨子は大きく2つである。第一は,膵実質壊死がなく膵周囲壊死のみであっても壊死性膵炎と定義したことであり,第二には急性膵炎に伴う病変を発症からの経過時間で分類したことである。これは発症後4週程度経過すると周囲組織の器質化により炎症巣の被包化が進むことを組み込んだものであり,4週以降では壊死を伴わない液体貯留は仮性嚢胞になるが,壊死を伴う場合には内部に壊死を含んだ液体が,器質化した周囲組織によって囲まれた,「被包化壊死」とでも称すべき状態となる。これをwalled-off necrosis(WON)と表現している。
さらに間質性浮腫性膵炎からのみ膵仮性嚢胞(pancreatic psuedocyst:PPC)が生じ,壊死性膵炎から変化した病変は,常に内部に壊死を伴っていることを明記したもので,きわめて臨床的な分類と考えられる。そして,それぞれに感染を伴う場合と伴わない場合があり,臨床的に混乱をきたしていた膵膿瘍の概念を廃して,PPCの概念を復活させている(表1)。
この改訂を受けて,わが国の「急性膵炎診療ガイドライン」も改訂が必要となり,多くの委員の尽力の結果,2015年3月に「急性膵炎診療ガイドライン2015」が上梓された。改訂Atlanta分類の反映はもちろんであるが,2010年以降の研究報告の解析を加味したほか,多くの見直しがなされた。その中でも特に重要な点について概説する。
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