わが国から発信された新規疾患の自己免疫性膵炎(AIP)は,日本膵臓学会(JPS)の臨床診断基準(2002,06年)を経て,11年国際コンセンサス診断基準(ICDC)により国際的にも認められた。ICDCの提唱を受け,11年に臨床診断基準(JPS-2011)も改訂された
「自己免疫性膵炎診療ガイドライン」は2009年に作成されたが,ICDCとわが国のJPS-2011との整合性を保つことを主眼に2013年に改訂された
わが国のAIPのほとんどは,高IgG4血症と著明なIgG4陽性形質細胞浸潤,閉塞性静脈炎,花筵(はなむしろ)様線維化を特徴とするlymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis(LPSP)であり,IgG4関連疾患の膵病変(1型自己免疫性膵炎)とされている
本ガイドラインの主眼は,①1型と2型自己免疫性膵炎の概念と定義,②ICDCとJPS-2011に基づく診断法,③IgG4関連疾患の診断法と治療法との整合性,である
International Consensus Diagnostic Criteria(ICDC)の提案を受けて,自己免疫性膵炎(autoimmune pancreatitis:AIP)の疾患概念に1型,2型亜型があることとともに,定義も変更された。本稿では,そのほか,改訂版で変更されたclinical questions(CQ)のポイントを記す。
従来,「自己免疫が関与する原因不明の膵炎」と定義されていたが,1型,2型亜型の包括的なICDCの提案を受け,「しばしば閉塞性黄疸で発症し,時に膵腫瘤を形成する特有の膵炎であり,リンパ球と形質細胞の高度な浸潤と線維化を組織学的特徴とし,ステロイドに劇的に反応することを治療上の特徴とする膵炎」と定義された。その上で「わが国では主として1型であり,単なる『自己免疫性膵炎』とは1型を意味するIgG4関連疾患(IgG4- related disease)の膵病変」として,欧米に多い2型(idiopathic duct-centric chronic pancreatitis:IDCP)と別の病態であることを明記した。
閉塞性黄疸,糖尿病症状を呈することが多いこと,1型自己免疫性膵炎患者で腹痛は無~軽度である一方,2型自己免疫性膵炎では腹痛が多く,しばしば急性膵炎を伴うことを記した。
初版CQの「CQ-Ⅰ-8)特徴的なMRI検査所見はあるか?MRCPにより主膵管の狭細像を評価できるか?」は改訂版では「CQ-Ⅰ-8)MRCPにより主膵管の狭細像を評価できるか?」とされた。ステートメントには「びまん性膵腫大,T1強調像での低信号,ダイナミックMRIでの遅延性増強パターンが特徴である」,「病変周囲を取り囲む被膜様構造(capsule-like rim)は病変辺縁部の強い線維化を反映しており,特異度は高い」とともに「MRCPは現段階では主膵管の狭細像の正確な評価には用いられない」ことが記載された。
ICDCの提案を反映して,ステートメントには1型自己免疫性膵炎の組織像として「高度のリンパ球,形質細胞の浸潤と線維化,多数のIgG4陽性形質細胞浸潤,花筵状線維化,閉塞性静脈炎,膵管上皮を取り巻く炎症細胞浸潤,など」の特徴的組織像から診断することが可能であることを記すとともに,2型自己免疫性膵炎の組織的特徴として,「小葉間膵管の上皮や管腔内への好中球浸潤を特徴とし,IgG4陽性形質細胞の浸潤は少数である」ことにも言及している。
悪性疾患の否定とともに,膵画像所見,血液所見,病理組織所見,膵外病変,ステロイド反応性などより,総合的に診断する点は初版と同じであるが,ICDCにより,1型,2型自己免疫性膵炎の診断が可能であることを記載した。さらにICDCは日常臨床ではやや煩雑なことより,わが国ではほとんどを占める1型自己免疫性膵炎を対象に作成された「自己免疫性膵炎臨床診断基準2011」(表1)を用いて診断することを推奨している。
初版の「CQ-Ⅰ-13)ステロイド治療に対する反応で診断できるか?」はICDCと自己免疫性膵炎臨床診断基準2011においてステロイド反応がオプションとして診断項目に採用されたことより,改訂版で「CQ-Ⅰ-13)ステロイドの診断的治療は膵癌との鑑別に有用か?」と変更された。ステートメントはそれに伴い,「ステロイド治療により反応する場合は,自己免疫性膵炎である可能性を示唆するが,膵癌合併を否定するものではないこと,限局性腫大や腫瘤形成の場合には,ERPによる膵液細胞診や擦過細胞診,あるいはEUS-FNAにより悪性疾患の除外後にステロイドトライアルをすべきである」ことが推奨された。
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