文書管理がにわかに取り沙汰されるようになった昨今だが、国民がこぞって甚大な人権侵害に加担してしまったハンセン病においては、その過ちを繰り返さないためにも、将来にわたる検証に供することのできる歴史資料を滅失させることなく引き継ぐことの重要性を日々感じている。
「過去そして今を、未来に」をキーワードに、90回を記念する日本ハンセン病学会では、「ハンセン病アーカイブズ構築のこれから」として医学のみならず、医学史、日本史、民俗学領域の研究者、アーキビストによるシンポジウムを開催した。
世界的には年間20万人を超す新患が出ているハンセン病であるが、わが国ではここ10年以上1桁に留まっていて、そのほとんどは在日外国人である。研究者は自ずとフィールドを海外に求め、途上国でのハンセン病対策への医療協力にも関与してきたが、国内ではハンセン病本体から後遺症・合併症、もしくはブルーリ潰瘍などの近縁疾患へ。さらにはハンセン病療養所入所者の高齢化に伴う諸問題が臨床医には喫緊の課題となり、日本ハンセン病学会における演題内容もそれらを反映して推移してきた。社会的要素の色濃い疾患であるため、人文社会科学系研究者の参加が近年増加していることも本学会の特徴である。
医学史研究の側面からは、医学性善説の批判から被害者史観が主流であった時代を経て、ようやく史料に即した、より実証的な研究の時代の幕開けを迎えた。戦後日本における形成外科の黎明期に、ハンセン病療養所でもその後遺症に対し多数の形成外科手術が行われていることや、米国では足病医の育成にハンセン病の神経障害性足病変の治療経験が大きく貢献した歴史は、もっとたくさんの関係者の知るところとなって然るべきである。
歴史資料は一定のルールのもとで管理し、活用してこそ、アーカイブズ足りうる。個人情報保護法、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針、同ガイダンスなどを踏まえ、要配慮個人情報を含む医療アーカイブズをどのように構築していくか、アーカイブズ学の専門家を交え真摯に取り組んでいかねばならない。