昨年は日本人の4年連続ノーベル賞受賞はならなかったが、少し前に気になるニュースを目にした。科学技術・学術政策研究所がまとめた「科学技術指標2017」である。2013年から3年間の日本の自然科学系の論文数が、10年前の米国に次ぐ2位から、中国、ドイツに抜かれ、世界4位に転落したというものである。日本の論文数は6万4000件、中国は22万件なので、既に大差である。ならば、被引用件数が上位10%に入る、いわゆるハイインパクト論文のシェアではどうかというと、40%の米国、中国、英国、ドイツ、フランス、カナダ、イタリア、オーストラリア、スペインに次いで5%の10位なので、事態はさらに悪い。タイムズ・ハイヤー・エデュケーションの「世界大学ランキング」でも東大が過去最低の46位となり、上位200校には東大と京大(74位)のみ、400位内に阪大、東北大、東工大、名大、九大がかろうじて入った。
政府は若手研究者の雇用安定や企業資金の活用、海外との連携を大学に求めるなど相変わらずだが、そもそも今の事態は政策がまねいた必然と言える。2004年の国立大学法人化では経営が優先され、中期目標・計画は教員の短期的評価につながり、長期的視野の研究はやりづらくなり、自己評価書類作成のために研究時間をとられる。
さらに、医学部において致命的だったのは、同時期に始まった臨床研修制度である。基礎医学系の大学院生は激減し留学生、特に中国出身者が多くなった。
ところが、10年後には上で述べた理由から、日本はもはやアジア諸国の憧れではなくなり、留学生も中国を志向する。さらに、医療分野の国際競争力を高め産業成長に寄与させる目論見で、研究費は政策的に応用・実利的なものに大きくシフトさせられたため、基礎研究者が応募できるのは文部科学省の科研費ぐらいで先細るばかりである。危機感を持った学術研究懇談会も政策的な大口の競争的資金であるJST、AMEDなどの募集課題そのものが出口指向で直接的な成果を求めており、研究者の自由発想に基づく科研費等の基礎的研究費の拡充を提言している。それに加えて、大学院生への財政的支援と大学(医局は死語か?)の人員確保の策を進めないと、日本の失地回復は難しいだろう。