『統帥綱領』(大橋武夫著、建帛社刊)は、陸軍大学校の極秘本であり、終戦時にすべて焼却処分されましたが、暗記している元将校によって復元されました。ある方から本を借用して通読してみました。内容は意外と柔らかなのに驚きました。
たとえば、「とにかく弱い」フランス軍がナポレオンの時だけは例外だったのは「将兵よ! 四千年の星霜はあのピラミットの頂上より、まさに諸君の働きを見ているぞ」のような、演説のうまさにあると分析されていました(第四章、57~59頁)。
彼の演説は、将兵大衆を熱狂させる魔力を発揮し、彼の命令を受けるや、飢えても靴が破れても、一言の不平ももらさずに、喜んで進軍したということです。彼の代表的な演説を引用します。
イタリア作戦開始時の演説(1769年3月、ニース)
①親愛なる兵士諸君!諸君は食うにパンなく、着るに服なく、雨露をしのぐに家なき窮状において、銃を枕に洞窟で眠り、善く祖国のために戦ってきた。(中略)何ら報いることができなかった。②しかし、今後は違う。予は諸君を率いて、地球上最も富裕といわれるロンバルジアの平原に進撃する。③広々とした田野の豊かな実り、繁栄している諸都市に山と積まれた金銀財宝、それらのすべてを諸君の取るにまかせる。兵士諸君!諸君は今、飢えかつ凍えているが、しばらく予とともに忍ベ!余とともに進め!われらの進むところには栄誉と富がある。兵士諸君!進撃の勇気をふるいおこせ!
お気づきのように、ナポレオンの演説は3つの部分から成り立っております。①兵士らの過去の功績を称賛する、②共同の目標を告げる、③魅惑的な賞を匂わす。これは病院なり組織の管理者が、職員のモラール(職務遂行上における意欲)を引き出すのに応用できそうです。①職員のこれまでの尽力に感謝、②これからの達成目標やビジョンを明示、③それが達成されたときの報奨を提示。最近ではこの3点を軸に職員に話をするように努めています。