海外のことわざに「Is the glass half empty or half full?」というのがあります。グラスに半分水が入っているとき、「まだ半分ある」と感じる人と「もう半分しかない」と思う人がいますが、多くの場合、前者は楽観性や積極性などのポジティブ思考が強いことを示します。一方、後者は悲観性や慎重性などネガティブ思考を示すとされます。
同じものをみても感じ方が違うということですが、データを紐解いてみると、ここ十数年の追跡調査では、ポジティブ思考によって他人との関係も円滑になり、仕事やプライベートで成功しやすく、さらに、生命予後も5~20%も延びると報告されています。しかし、中には過度にポジティブな人はあらゆる場面で楽天的で、勝負どころで慎重さに欠ける判断をし、結果的に不健康な生活習慣により早死にするという報告もあります。何事も中庸が最良で、程々のポジティブ思考が好結果をもたらすということでしょうか。
手術の決断という点では、多くの外科医はその仕事の性格上「Glass half full type of person」つまり、ポジティブ思考が多いと思います。特に大学病院では、チャレンジマインド旺盛でなくては新規技術の開発や新発見はないでしょう。しかしながら、特に外科では手掛けた手術が自分の技量を超えると判断されたとき、「涙を呑んで撤退する」ことも大事な決断とされます。術死は患者さんや家族のみならず、術者にとっても悲観的な結論を導きます。
その意味では「Glass half empty type of person」に徹する勇気も必要で、何事もバランスが求められます。病院経営についても飛躍的な発展を望まないのであれば、慎重派が望ましいかもしれません。
別の考え方として、グラス半分の水を見て「注いでいる途中」ととらえる人もいるでしょう。確かに注いでいる途中ならば、これから増えていく、飲んでいる途中ならば、どんどん少なくなる。そんな答え方をする人は“Realist”、つまり現実主義者、あるいは実用主義者とされます。
将来ある若い医師には前者の考え方、つまり「グラス半分の水にさらに水を注いで、溢れ出る無限の可能性」を期待したいものです。