世界の糖尿病患者数は現在約4.5億人、数十年以内に倍増するとされる。このような激増は糖尿病のTsunamiと呼称され、「糖尿病は脅威ある疾患」として2006年に国連決議が行われた。ちなみに、国連はインスリン発見者バンティングの誕生日である11月14日を「世界糖尿病デー」と制定し、これを受けて各国でブルーサークルを象徴として様々な活動を行っている。
最近、日本でも糖尿病はマスコミなどでもよく取り上げられるが、もしかして日本は糖尿病が多いのだろうか?わが国で糖尿病は最近40年間で30倍と著しく増加しているのに対し、欧米では10倍とわが国よりもはるかに緩やかである。
欧米人に比べ、日本人の摂取カロリーは少なめで肥満者も目立たないのに、糖尿病が多い、というのは少し意外な感じがするかもしれない。これは、日本人が民族的に糖尿病になりやすい体質(遺伝的素因)を持っているため、と考えられる。日本人は何千年にもわたって穀類中心で比較的低カロリーの食生活を続けてきた。低脂肪の食事とよく体を動かすことで糖の利用がうまくいっていた。優れた省エネ体質の遺伝子をつくり上げてきた。
そこに、最近の食生活の欧米化による過剰な脂肪摂取と栄養バランスの変化が糖尿病を激増させた、と考えられる。日系二世米国人では日本人よりも2〜3倍、米国の白人より数倍以上の確率で糖尿病になりやすい。すなわち、日本人が環境因子、特に食生活の変化に影響されて、糖尿病になりやすい体質であることが証明されている。
一方、健康寿命の維持には筋肉が重要であることも明らかになっている。従来の高齢者はあまり蛋白質を食べると消化に悪い、腎機能が低下するなどとして、蛋白は少なめに、という考えが浸透していた。しかし、蛋白の摂取が少ないと高頻度に「サルコペニア」という筋肉減少や筋力低下につながり、糖尿病はこれを加速させることも明らかになった。
サルコペニアから老年症候群をきたすと、寝たきりになる頻度も高くなる。筋肉の材料になる鶏肉、レッドミート、赤身の魚、卵などをしっかり食べ、食後30分くらいからスクワットなどの軽い筋トレや歩行を行うことにより、筋肉をしっかり鍛えて健康寿命の延伸につなげることも大切で、糖尿病を含む高齢者の食事について考え直すべき時期にきている。