直感的「速い認知」と論理的「遅い認知」による人間の意思決定メカニズムを解き明かす、行動経済学の世界的ベストセラー。2014年にハヤカワ文庫から上・下巻が刊行
本稿のご依頼ですぐに思い浮かべたのは、Kazuo Ishiguroの「The Unconsoled」(邦題「充たされざる者」)だった。現実と記憶のあいまいさの何ともいえない時間を描いた書をもう一度読み返してから、と思って数日が過ぎると、ノーベル文学賞受賞のニュースが飛び込んだ。受賞は至極当然であり、文学の王道の受賞に戻ったことを喜びつつも、ノーベル賞作家の小説の解説などとても書けない。
では何を、と180度回転して、ダニエル・カーネマン著「ファスト&スロー」を選択した。原題は、「Thinking, Fast and Slow」。著者は認知心理学者であり、経済学への大きな影響からノーベル経済学賞を受賞した。脳には、直感的認知と論理的認知があり、前者が大きな影響を与えているという選択・決定における多種の認知バイアスを実験心理学で示している。
残り325文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する