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松本良順(18)[連載小説「群星光芒」302]

No.4892 (2018年01月27日発行) P.66

篠田達明

登録日: 2018-01-27

最終更新日: 2018-01-23

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  • 冬がやってきて持病のリウマチが痛みだした。伊豆の修善寺温泉へ療養に出かけたが、あいにく大雪が降り、目が眩しくていけない。目をやられたと思い、熱海の停車場から汽車に乗って大阪へ向かった。

    大阪にはわしの門人で眼科の名医高橋江春が開業している。電報を打ったので高橋が梅田の停車場まで迎えにきてくれた。

    高橋は結膜炎と診立てて炎症を抑えるヨードホルムの眼軟膏を処方した。これを数日つづけるとすっかり治った。

    ほどなく、今度は右目の角膜が濁りだした。左目にも小水疱が沢山できて視界は朧げである。持病のリウマチのせいかもしれぬと、再度高橋眼科を受診した。

    高橋は目蓋をひっくり返したあと、「暫く治療をすれば治りましょう」と言うので大阪に家を借りて高橋の許に通院した。

    ひと月ほどすると、目は八分通り回復したから大磯へ帰った。

    わしの帰りを待ち構えたように縁者や門人が上野の精養軒に300人ほど集まり、古希を祝ってくれた。伝染病研究所の北里柴三郎が発起人を代表してわしを労う親身の挨拶があった。

    その1週間後に陸軍軍医部の軍医たちも古希を祝ってくれた。宴は九段坂の偕行社で開かれ、軍医部を創設したわしがまだ健在だというので、陸軍大臣も出席した。参加者は150名、互いに酒を汲み交わし陽気に騒いで歓を尽くした。

    その後、宮内省から勲二等を授けられた。人に等級をつけるのは好みではないが、わしなりの理屈を立てて貰うことにした。

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