「筋肉は裏切らない」「筋肉はすべてを解決する」などの名言とともに普及した筋肉ブームは、ここ20年の医療業界でもトレンドになっています。つまり、医療が向上したからこそ生存率よりも健康寿命に目が向けられるようになり、身体機能やADLを維持することが重要な治療目標として認識されるようになったわけです。そして健常時でも病時でも大事になるのが筋肉「量」であり、前述のように筋肉が大事という多くの場合には、筋肉量を指しています。
筋肉はアミノ酸を貯蔵する貴重な財産であり、栄養や運動に直結するアウトカムなのです。医療におけるサルコペニアは、自分の専門とする救急集中治療領域ではpost intensive care syndrome(PICS)やICU-acquired weaknessという形でとらえてコンセプトを共通とし、それらの診断において筋肉量評価は必須のものとなっていました。
折しも、栄養療法の領域でもGlobal Leadership Initiative on Malnutrition (GLIM)基準(国際的な栄養アセスメント方法)において筋肉量の評価が必須となっており、日本でも世界でもGLIM基準を日常的に使用すべきという潮流ができています。今後、筋肉量は栄養の観点からも欠かせないものとなり、さらに幅広い医療領域で求められていくことでしょう。
しかし筋肉量を計るのはことのほか難しく、精確かつ的確に計るには多くの知識を整理する必要がありました。特に急性期においては、様々な制限が生じることも相まって、多くの医療従事者は手探りしながら筋肉量評価に挑んでいた、と言っても過言ではないでしょう。
そのように、重要でありながら画一された評価が困難な筋肉量評価のノウハウを、惜しみなく詳細に教示してくれる本書は、集中治療の潮流に乗るための有用なバイブルとなるものです。本書を執筆した中西信人先生に敬意と賞賛を送ります。