長く働き続けられる「医師」という職業だからこそ、自分の理想の生活に合った働き方を考える必要があります。今回はシニア医師を取り巻く環境の変化と、多様化する働き方をご紹介します。
英ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏が提唱した「人生100年時代」という言葉は世界中で大きな話題を集めました。同氏は著書「LIFE SHIFT」内で、長寿化の進展により寿命が延び、個々の生き方が多様化した現代では、従来の「学ぶ」「働く」「引退する」といった単純なライフプランではなく、ライフステージを組み替えながら柔軟な生き方・働き方を模索することが求められると強調しています。生涯現役で活躍することができる資格を持つ「医師」という職業だからこそ、より長く・より充実した医師生活を送るために、早期からしっかりと備えておくことが必要と言えるでしょう。
内閣府が毎年公表している「高齢社会白書」によると、2014年に25%を超えた日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は、2024年は29.1%、2070年(令和52年)には、38.7%まで上昇し、2.6人に1人が65歳以上になると推計されています。
厚生労働省の統計によると、2022年12月31日時点の医師総数は34万3275人、全体の平均年齢は50.8歳。2008年から上昇が続き、ここ4年は50歳を超えており、社会全体の高齢化と同様、医師の高齢化も進んでいます(図)。
施設の種別ごとに見ていくと、病院・大学病院(医育機関付属の病院)勤務医の平均年齢は45.4歳で30~39歳が最も多くなっています。開業医を含む診療所に従事する医師の平均年齢は60.4歳で60代以上が全体の52.7%と半数以上を占め、多くのベテラン世代の医師が開業医として医療現場を支えていることがわかります。
医師免許に定年はなく、年齢に関わらず診療が可能ですが、保険診療を行うには保険医療機関で従事する必要があります。医療機関ごとに定年が定められ、働き方によって定年が異なります。①公立病院勤務医、②民間病院勤務医、③開業医─の3パターンに分けて定年を解説します。
県立・国立などの公立病院や国公立大学病院、医系技官や矯正医官といった省庁に採用される医師は、公務員の規定により定年が定められます。公務員の定年は2023年まで60歳とされていましたが、医師・歯科医師等は特例として65歳と規定されているため、多くの公立病院勤務医は65歳が定年となります。公務員の定年は2031年までに段階的な引上げが行われるため、特例である医師の定年についても今後見直される可能性があります。
民間病院に勤務する医師の定年は、勤務先となる各病院が定める規則によってさまざまです。多くの場合は60歳もしくは65歳を定年と定めていますが、高齢化や医師不足により70歳を定年とするケースや、院長などの役職を付けることで定年後も継続して勤務するなど、定年制度の多様化も進んでいます。勤務先の規則を事前に確認する必要があるでしょう。
診療所・病院を経営する開業医には定年の定めがなく、生涯現役で働き続けることや自分自身で引退のタイミングを決定することができます。体力的な不安がある場合は、後継者となる医師を雇い入れることで、現場の一線から退き、経営者として長く働き続けることも可能です。
2024年度から開始された「医師の働き方改革」に伴う時間外労働の上限規制の適用による医師不足の影響もあり、定年後の医師は貴重な医療の担い手として今後も需要が見込まれます。定年退職を迎えた後も体力・気力ともに充実した多くの医師が、その需要に応え医療現場で働き続けています。
ここでは、定年後の代表的な選択肢とその特徴を紹介します。
勤務医の場合、定年前の勤務先に再雇用(継続雇用)される場合があります。勤務先に再雇用制度や勤務延長、非常勤への切り替え制度などが設けられているかをあらかじめ確認しておきましょう。一般的に定年後再雇用では、定年前と比較して給与水準が下がることが多いため、定年後の給与や、当直の有無といった勤務条件についても注意が必要です。
現在の勤務先で定年を迎える前に、より長く働ける民間病院などに再就職をするのも1つの方法です。慢性期・療養期・回復期の診療を中心とする病院や小規模の無床診療所などは体力的な負担が少なく、高齢になっても常勤で働き続けやすい職場と言えるでしょう。常勤医として再就職する場合、定年後の再雇用よりも給与水準が高い場合が多く、安定した収入を得ながら長く現役で働き続けることができます。
介護老人保健施設などの施設長は今後ますます増加が見込まれる介護ニーズに対応するため定年を定めていない場合が多く、60代以上の医師が中心年齢層となっています。病院・診療所での勤務より給与水準が下がるケースもありますが、入所者の健康管理・健康指導、看護師などのコメディカルへの指示といった業務がメインとなり、少ない負担で勤務が可能です。
体力的な不安がある場合は、非常勤医師としての働き方を選ぶこともできます。非常勤であれば、基本的な業務内容は定年前と同じまま、勤務日数や時間を減らし、希望に合わせて働き方を調節することが可能です。健診センターでの非常勤勤務も人気があります。健診医はスポットバイトの求人も多く、自分のペースで働きやすい点も人気の理由です。
このように、定年後の働き方の選択肢は多様化しており、定年前から自分の希望のセカンドキャリアやファイナルキャリアについてしっかりと軸を考え、準備をしていく必要があります。高齢化に伴う人手不足を背景とした定年年齢の引上げや「医師の働き方改革」など制度改革の影響から、キャリア選びは従来に比べ複雑化していることから、よりよいキャリア選択をしたいという医師のニーズに応える医師求人エージェントやコンサルティングサービスが注目を集めています。
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