近年の腸内細菌叢解析の発展には、目覚ましいものがある。腸内細菌叢の攪乱(dysbiosis)は種々の全身性疾患の病態と強く関連していることがわかり、成人領域では腸内細菌叢の改善をターゲットとした治療法も確立しつつある。しかし、小児科領域における腸内細菌叢と疾患関連性や攪乱した細菌叢の是正を介した治療効果については、まだ多くはわかっていない。
わが国の小児の腸内細菌叢研究のトップランナーであり、本書の編著者・金子一成先生が序文で述べているように、小児の腸内細菌叢とその攪乱は、アレルギー・免疫疾患、代謝疾患、神経疾患、炎症性腸疾患、腎疾患、神経発達症(発達障害)、肥満などとの関連が示唆されている。腸内細菌叢を理解することは、これら疾患の病態解明や治療にも繋がる可能性がある。さらには、小児科ではいまだ原因不明とされている川崎病の患者においても、腸内細菌叢の質的・量的なdysbiosisの関与が判明しつつあることは大変興味深い。加えて小児の腸内細菌叢の形成には、主に生後1000日間の栄養(nutrition in the first 1000 days)が重要とされているため、出生直後から診療にあたる新生児科医にとっても、本書の内容は熟知するに値する。
本書は、腸内細菌叢の研究者はもちろん、小児科・新生児科の医師、小児と接する看護師はもとより、子ども達の青年期以降の健康を管理する内科医を含むすべての医療従事者にとって、役立つものと確信している。最先端の小児の腸内細菌叢研究の紹介、臨床応用の可能性、今後の研究の展望が明快かつコンパクトにまとまっているほか、各章に必読の関連論文の紹介も豊富に収められている、まさに珠玉の一冊である。
最後に繰り返しになるが、本書は小児の腸内細菌叢について、今知っておくべきすべての最新情報が網羅された、わが国初の良書である。万全の自信をもってお勧めする。