「近年の不思議な気配を諸君はもう感じただろうか……。循環器の教科書が年々厚くなっているのか,それとも諸君の目の錯覚なのか……」そんなホーンテッドマンションのような台詞の背景には,年々爆増する治療法やエビデンスがある。毎年出る新薬やカテーテル,それを使用した大規模臨床試験,結果に伴い改訂されるガイドライン,改訂も追いつかず,取り急ぎのフォーカスアップデート版……。知識のアップデートが追いつかない。と書いた矢先に,新しい臨床試験がXでポストされている。
まさにエビデンスのビッグバン……。なんかカッコイイ響きだったので書いてみただけだが,ひとえに循環器といっても虚血性心疾患や不整脈,心不全,心エコー分野に細分化され,それぞれの小宇宙がビッグバン……。人間の記憶できる範囲を優に超えている。不整脈専門医の僕にとって,最近のステントやFFRを正確に覚えるのは厳しい。PCI後のDAPTの期間がギリである。HFpEFの診断も怪しいのに,「HFmrEFの“mr”が,“mid-range”から“mildly reduced”に変更された」とか,無駄に覚えることを増やすのは本気でやめてほしい。だいたいHFmrEFってどう読むんだ。そんなことに囚われていると,もう最近のなんちゃらショナルMRとか,ガチで無理無理無理無理。なんだ,hANPってもう過去の薬?知らなかった。
とはいえ,分厚い専門書を最初から読む気力も時間もない……。 非不整脈医も同じ思いではなかろうか。毎年のように出る心房細動のエビデンス……。
「リズムコントロールとレートコントロールって,予後は一緒じゃなかったの?」
「クライオ,焼くヤツ,パルスフィールド……どれでもよくね?」
「HAS-BLEDも無理なのに,HELT-E2S2とか勘弁! CHADS2がギリ!」
そんな悩める非不整脈医に朗報である! 日常診療でよく遭遇する不整脈疾患について,基本的な病態の復習から最新の大規模臨床研究の結果,ガイドラインの推奨まで,まるで不整脈医が個人授業をしてくれているような教科書,『ジェネラリストの不整脈診療』が出た。
第1章では,不整脈診療で避けて通れない「動悸」と「失神」という2症候について,どれだけ解像度の高い問診と鑑別ができるか,そのコツを解説。
第2章では,心房細動を診た際の初期対応,抗凝固療法,アブレーションの適応とそのエビデンス,さらには最新の左心耳閉鎖術まで,心房細動に関するすべての知識がココに。さらに,外来で重要な,睡眠時無呼吸やアルコールやカフェイン,喫煙,運動などの生活習慣と心房細動の関係についてもまとめてある。
第3章では,全医師の嫌いな疾患No.1である上室頻拍の鑑別と抗不整脈薬について,丁寧に解説。こりゃ不得意が得意に変わることもあるのでは?
続く第4章では,徐脈性不整脈やペースメーカーの適応,さらに最新のリードレスペースメーカーにも追いつける内容。
そして第5章では,不整脈専門医ですら覚えられない遺伝性不整脈の診断やICDの適応の極意。
本書は,不整脈医であっても診察室に置いておきたいと思わせる1冊である。時間をかけずに不整脈の最新知識をアップデートしたい循環器内科医や内科医にとって,都合の良すぎる「激推しバイブル」である。