小児科医として、一人で当直をするようになって間もない頃、高熱と痙攣を起こした乳児が入院してきた。昨日までは元気であったというその子どもは、顔面蒼白でぐったりしていた。最も重症な感染症である細菌性髄膜炎を疑い、髄液検査を行ったところ濁った髄液が採取された。翌日、チョコレート寒天培地に生えてきたのは光沢のあるほのかに甘い匂いのする細菌で、これが子どもたちに死の恐怖を与える微生物、インフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b:Hib)との出会いであった(写真)。
幸い、抗菌薬投与と集中治療管理のおかげで一命はとりとめたものの、意識を回復してしばらくした頃、周囲の音に反応が乏しいのではないかとの訴えが家族からあった。聴力検査を行ったところ両側の高度難聴と判明し、手は尽くしたものの、この子の聴力は回復することはなかった。それがわかったときのご両親の落胆した姿と自分のふがいなさは生涯忘れることはない。
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