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【私の一冊】三つの都の物語

No.4905 (2018年04月28日発行) P.65

小倉真治 (岐阜大学大学院医学系研究科 救急・災害医学分野教授)

登録日: 2018-04-24

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16世紀前半、超大国の脅威に翻弄されるヴェネツィア・フィレンツェ・ローマの3都市の物語。塩野七生著、朝日新聞出版より刊行

史実が体温を持って迫ってくる

「三つの都の物語」はルネサンス期の魅力的な三つの都を舞台とした恋物語である。主人公マルコ・ダンドロとヒロインであるオリンピアは作者・塩野七生さんが作り出した架空の人物であり、その2人を丹念に書き込まれている史実の中に放り込むことによって、既知であったはずの史実まで体温を持って私たちに迫ってくる。

第一の都は緋色のヴェネツィア。マルコの公務としての激しい権謀術数が描きこまれ、その中でオリンピアに対する思いが深くなっていることが見えてくる。マルコはその歴史の流れの中で、実はスパイだったオリンピアに利用されたことが明るみに出て、公務を解かれるという処分を受けたところで第一の物語は終焉を迎える。

そうはいってもマルコは死罪になったわけではなく、3年間公職を解かれただけであり、私人としては生きていくことができるだけの私財があるのであった。

第二の都は銀色のフィレンツェ。私人としてこの都市に滞在するマルコと当時のフィレンツェを支配していたメディチ家との交流が描かれる。イリスの花の香りという嗅覚も刺激しながら進んでいく日々の中で、今度は超大国スペインとの絡みが生じてくる。街の中でオリンピアと再会し、再び強く惹かれあう。物語はメディチ家に起こった史実を忠実になぞっていく。

最後の物語は黄金のローマ。ヒーローとヒロインの旅はフィレンツェから始まりローマに錨を下ろす。私人としての気楽な人生と公務に対する責任感の狭間でマルコはどのように折り合いをつけていくのか。

私が塩野七生さんの作品をはじめて読んだのは「ローマ人の物語」であるが、その中のジュリアス・シーザーの姿は男でも惚れ惚れする。その延長にある男を書いた、この本はまさにマーベラス!!

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