No.4907 (2018年05月12日発行) P.62
仲野 徹 (大阪大学病理学教授)
登録日: 2018-05-09
最終更新日: 2018-05-08
おかげさまをもちまして、連載200回を迎えることになりました。これも、ひとえに皆様方のおかげと心から感謝いたしております。なにか記念になるようなエッセイをと考え、「ベストセラーへの道」を何回かにわたって書かせていただきとう存じます。
「えらそうに自分でベストセラーと言うな!」という声が聞こえてきそうですが、拙著『こわいもの知らずの病理学講義』は、17刷で発行部数すでに6万4千部。この手の本にしては信じられない売れ行きらしいので何卒ご寛恕のほどを。
発刊したのは昨年の9月だが、執筆の依頼をうけたのは2011年の4月21日である。記録がないのに、珍しく鮮明な記憶があるのには理由がある。
その日は伊丹十三賞の贈呈式があった。内田樹先生が受賞され、ご招待いただけたので、めったにない機会だからと東京まで出向いていった。周防正行・草刈民代夫妻、糸井重里、南伸坊(敬称略)とか、有名人がぞろぞろいて、むっちゃ楽しかった。
授賞式から二次会へ向かう道すがら、まったくの初対面だった編集者の安藤聡さんから「本を書いてください」と声をかけられた。「はぁ、なんのこってすか?」である。そりゃそうだろう。初対面でそういう声をかけるとは、よほど見る目のある編集者か、誰彼なく声をかけるとことんええ加減な人かどちらかにちがいないではないか。
失礼ながら、前者であったらうれしいが、たぶん後者であろうと思った。なにしろ、素人相手に、テーマはなんでもいいからというのだから。もちろんこの時、安藤さんが内田樹先生などを世に出した辣腕編集者であることなど知る由もない。
一般の人に病気のことを知ってもらうのは意義深いし、講義用の小ネタがたくさんあるし。ということで、メールで相談をして、病理学総論、すなわち病気はどのようにしておきるかについての本を書きましょう、ということになったはずだ。
「はずだ」というのは、そのあたりの記憶がかなり曖昧で、昔のメールなど残していないから、いたしかたなし。ようやく発掘した翌年2月のファイルは章立てだけが書かれたメモのようなもので、タイトルも少し違っていて、『こわいものなしの病理学』だ。こんなに売れるとわかっていたら、もっとちゃんと記録しといたのになぁ。
なかののつぶやき
「日記をつけてても、何の原稿を書いたとかいう日常的なことは記録してないので、結局わかりませんね。すっかり忘れてましたが、この頃に、一生に一度っきりのNature誌の論文が採択されたり、HONZの成毛眞さんと知り合いになったりしてます。いまにつながるいろんなことがまとめて始まってたんやなぁと思うと、何だか感慨深いです」