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運転中の体調変化が重大事故の原因に[先生、ご存知ですか(4)]

No.4909 (2018年05月26日発行) P.63

一杉正仁 (滋賀医科大学社会医学講座教授)

登録日: 2018-05-25

最終更新日: 2018-05-22

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日本の多くの地域では、日常生活の移動手段として自動車が必要です。多くの人に対して交通社会参加の道を開くべく、2002年に改正された道路交通法(道交法)では、特定の疾患患者が一律に自動車運転免許を取得できないという絶対的欠格事由が廃止され、免許取得の可否について個別に判断されることになりました。自動車の運転は生活に必要な行為である一方で、社会の安全にかかわることです。自動車の運転には複雑な認知・判断・運動能力を要するので、適切な運転能力に欠ける人が運転することは、事故を誘発することにもなります。

2011年の4月に栃木県鹿沼市で登校中の小学生6人がクレーン車にはねられて死亡するという事故が起きました。運転者は内服薬のアドヒアランスが不十分であったこと、事故の前日に十分な睡眠をとっていなかったことなどにより、てんかん発作で意識を失い、事故を起こしました。さらに翌2012年には、てんかんの既往がある男性が車を暴走させ、8人が死傷するという事故(京都)が、また、ツアーバス運転者の睡眠時無呼吸症候群による影響で45人が死傷する衝突事故(群馬)が発生しました。このような、運転者の体調変化による事故がしばしば生じていたにもかかわらず、その現状が社会的に注目されず、さらに効果的予防対策が講じられてこなかったことは事実です。

諸外国の報告では、交通事故死の1割以上は運転者の体調変化が原因とされており、わが国でも同様の傾向であることが確認されました。すべての事故の約1割が運転者の体調変化によるという事実から考えると、多くの運転者は、運転中の体調変化を経験していると予想されます。

そこで私たちは、日常的に自動車を運転する職業運転者を対象に、運転中に体調変化が生じる実態を調査してきました。その結果、運転中に体調変化を来したことがある人は対象者の22.6~33.3%を占めていました。また、体調変化が原因で事故を起こした経験がある人は0~3.0%、事故に至らなかったがヒヤリハットした(ニアミス)経験がある人は11.9~15.8%でした。このように、体調変化が原因で自動車事故やニアミスに至ることは、「よくある」ことなのです。

道交法第66条では、「何人も、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない」と定められています。したがって、自動車を運転する際に、全身状態が良好であることは大前提なのです。自動車の運転には複雑な認知・判断・操作能力が必要とされますので、注意障害、遂行機能障害、記憶障害、空間認知障害、失行、判断力低下といった高次脳機能障害があると、運転に支障を来すことがあります。

安全な交通社会を保つ上で、われわれ医療従事者は、自動車運転を前提とした健康管理、患者の状態に応じた運転中の注意などを行う必要があるのです。

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