財政制度等審議会(会長=榊原定征 東レ相談役)は23日、政府が6月に策定する財政健全化計画を見据えた建議(意見書)を麻生太郎財務相に提出した。医療分野の歳出改革案には医療費給付率の自動調整など、医療界からの反発が強い施策も数多く盛り込まれた。
建議では、団塊の世代が75歳以上になり始める2022年度までに「財政や社会保障の持続可能性の確保に向けて集中的に取り組むことが不可欠」と指摘。政府の基礎的財政収支の黒字化を遅くとも25年度までに確保し、消費増税をその「大前提」と位置づけた。
2019~21年度までの歳出水準については「分野ごとに規律を設ける」とした。社会保障関係費の伸びについては、高齢化による増加分(自然増)の範囲に収め、「医療の高度化等」に伴う増加をも抑制すべきとしたが、16~18年度で掲げた「年5000億円以内」のような目安の数値は明記していない。厚生労働省などからの反発に配慮しつつ、年5000億円より厳しい抑制に踏み込む余地も残した形と解釈できる。
医療・介護分野で注目される制度改革案(表)の1つが、医療保険の給付率を自動調整する仕組みの導入だ。これは公的年金における「マクロ経済スライド」と同様に、人口や経済の動向に応じて医療費の自己負担割合を増減するもの。建議では、支え手(生産年齢人口)が減少する中で給付率の上昇を公費と保険料で賄うには限界があるとして、支え手の過重負担を避けるため具体策について「検討を開始すべき」とした。
今年4月から国民健康保険の運営主管が都道府県に移行されたことを踏まえ、都道府県が高齢者医療確保法に基づく地域別診療報酬の設定を積極的に実施し、医療費適正化につなげることも提言した。
後期高齢者医療制度に関しては、自己負担割合を現行の1割から2割へ速やかに引き上げるよう求めた。
建議ではまた、費用対効果評価の結果を保険収載の判断に活用するよう提起。製造原価に営業利益分などを積み上げていく「原価計算方式」で算定される新薬には、費用対効果評価を義務づけ、費用対効果が低ければ収載を見送るか、公的保険で対応する場合は償還可能水準まで薬価を下げる仕組みにすべきとした。
ただ、これらの改革案に対しては、審議の段階から、日本医師会をはじめとする医療界、社会保障審議会、自民党内から反発や懸念の声が上がっている。
このほか、科学技術予算に関しては「伸びが十分でない」との指摘に言及しつつ、「対国内総生産(GDP)比や実額の絶対値で見れば、主要先進国と比べて遜色のない水準」と反論。一方で、「質の高い論文の数は主要先進国を下回り、研究開発の『生産性』は必ずしも高いとは言えない」として、予算の「使い方」の改善を訴え、「量」の拡大には否定的な見方を示した。
表 医療・介護分野の主な提言
制度の持続可能性を踏まえた保険給付範囲 |
費用対効果評価を踏まえた新薬の保険収載見送り |
かかりつけ医以外受診時定額負担の導入 |
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市販品類似薬の自己負担引上げ |
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公定価格と提供体制 |
国民負担を考慮した診療報酬の抑制と政策効果の検証 |
調剤報酬の改革 |
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地域医療構想の促進 |
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外来医療・高額医療機器の配置・在宅サービス等へのコントロール |
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都道府県による地域別診療報酬の活用 |
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給付と負担のバランス |
後期高齢者の自己負担の2割化と現役並み所得者(3割負担)の判定方法の見直し |
介護保険の利用者負担の引上げ(原則2割負担化) |
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金融資産等を考慮に入れた負担を求める仕組みの導入 |
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医療費給付率(自己負担)を自動的に調整する仕組みの導入 |